2017年7月6日木曜日

アムステルダムで『彼女』に会った(その5)【ヨーロッパ出張記】






2017年7月4日午後に到着した岩手県久慈市も、新幹線駅のある二戸と同様、涼しいというよりも寒い、という方が相応しいくらいであった。まるで、1989年7月のアムステルダムのように。

翌日(7月5日)は、久慈市は、もう寒いということはなかったが、東京に比べるとはるかにしのぎやすい気温であった。

その久慈市で、エヴァンジェリスト氏は、『彼女』に会った。

そう、『あまちゃん』である。

久慈駅前にある『駅前デパート』には、未だに『あまちゃん』の看板があったのだ。




『あまちゃん』こと『天野アキ』を演じた本名・能年玲奈こと『のん』は、今年(2017年)、地元岩手県のトップの地銀である岩手銀行のイメージ・キャラクターになったくらい、岩手県は(特に久慈市等、三陸海岸地域は)、未だに『あまちゃん』の里であるのだ。





1989年(今から28年前だ)の7月5日のアムステルダムで遭遇した『彼女』は、『天野アキ』よりも、『本名・能年玲奈』よりも、或いは、『のん』よりも有名な日本人女性であった。

その『彼女』に会う前、エヴァンジェリスト氏はまだアムステルダムの街を彷徨いていた。

チーズ屋さんがあった。

チーズは嫌いではなかったが(どちらかと云えば、好きであったが)、アムステルダムのチーズ屋さんに関心を示さなかった。

店頭のショーウインドウに並んでいたのは、ゴーダチーズであったのだ。



今はゴーダチーズも好きであるが、当時(1989年頃)、エヴァンジェリスト氏が接していたのは、フランス人であった。

エヴァンジェリスト氏が、でフランス人たちと共に開設した団体では、フランス人たちとソシソン(Saucisson)を、ブルーチーズやカマンベールチーズと共にフランスパンに載せ、よく食したものであった。ゴーダチーズは、そこにはなかった。



あの時、本場のゴーダチーズを食べておけばよかった、とエヴァンジェリスト氏は後悔する。

その後悔を耳にし友人のビーエル・トンミー氏は、

「勿体ない!」

と叫んだ。

チーズというかチーズ臭いソレが好きなビーエル・トンミー氏は、

「ピンクの『ショウウインドウ』で(和訳すると『飾り窓』になるらしい)、本場の『チーズ』を買えばよかったのに」




と、我が事のように残念がった。



(続く)




アムステルダムで『彼女』に会った(その4)【ヨーロッパ出張記】






2017年7月4日早朝から、エヴァンジェリスト氏は、岩手県は久慈市に向った。急用が発生したからである。

新幹線で二戸まで行き、そこでレンタカーで久慈市まで1時間程度で到着する。昔に比べるとずいぶん近くなった。

….と云うと、如何にも自分がレンタカーを運転したように聞こえるが、運転したのは、義理の甥である。エヴァンジェリスト氏は未だに運転免許を持っていない。

2017年7月4日の二戸は、涼しいというよりも寒い、という方が相応しいくらいであった。まるで、1989年7月のアムステルダムのように。


アムステルダムも、寒かった。そして、怖かった。いや、寒いのは確かであったが、怖さは、そう思い込んでいただけであったのであろう。

1989年7月2日(今から28年前だ)に到着したアムステルダムには、7月5日まで滞在したが、その間、少しだけした仕事以外では、エヴァンジェリスト氏は、宿泊したホテル・オークラ・アムステルダムに篭っていた。

寒く、怖かったのである。アムステルダムの街が、寒く、そして、怖かったのだ。

しかし、ホテルの部屋に篭ってばかりだと、帰国して妻に怒られることは明白であったので、体をすぼめるようにして、少しだけ外出をした。

寒風吹きすさび、道路に捨てられた紙くずが舞う街ではあったが、アムステルダムは、それでもヨーロッパの美しい街であった。パリのような華やかさはないが、落ち着いた美しさを持つ街であった。



電話会社は、当時(1989年)、まだ民営化されないでいたが、そのPTTの電話ボックスも、街の緑に馴染むものであった。



運河に架かる橋も風情があった。



運河も美しく、心和むものであった。



運河沿いのどこかに、アンネ・フランクの隠れ家があったのであろうが、そこまで行くことはしなかった。

事前に調べてもいなかったし、今のようにiPhoneで検索すればすぐ分るという時代ではなかった。フランスにはミニテルがあり、今のインターネットがあるのと同じような生活が送れていたが、オランダにはミニテルはなかった。

アンネ・フランクのことに想いを馳せながら、エヴァンジェリスト氏は頬を赤らめた。

『アンネ』という言葉が、恥ずかしかったのである。今の若い人たちは知らないかもしれないが、『アンネ』は女性が毎月にように体験するあるものの代名詞であったからだ。


ヴィンセント・ヴァン・ゴッホ通りも歩いてみた。正確には、彷徨いている内に、気づいたら、歩いている通りが「ヴィンセント・ヴァン・ゴッホ通り」であったのだ。

そこには、ゴッホが、血の出た耳を押さえて蹲っていることはなかった。

当時、ピーター・アーツやアーネスト・ホーストの存在を知っていたら、彼らのハイキックを耳に受け、流血したゴッホの姿を、その通り(ゴッホ通り)に妄想していたかもしれない。

ゴッホが、自ら耳を削ぎ落としたのではなく、或いは、キラー・カール・コックスのロープ最上段からのニードロップで耳が削ぎ落とされたのでもなく、K-1選手の殺人キックを受けたのであろう、と。

しかし、ゴッホ通りには、いずれにせよ、血の吹き出した耳を手で押さえたゴッホがうずくまっている訳でもなく、ひまわり一輪、そこに転がっていることもなかった






(続く)





2017年7月5日水曜日

アムステルダムで『彼女』に会った(その3)【ヨーロッパ出張記】






2017年7月4日未明、エヴァンジェリスト氏は、痒みに目が覚めた。体の幾箇所も蚊に刺されていたのだ。

足にできた湿疹の治療の為、皮膚科で処方してもらっていたVG軟膏を塗りまくった。

蚊は怖い。



アムステルダも、怖かった。いや、怖いと思い込んでいた。

1989年7月2日(今から28年前だ)に到着したアムステルダムには、7月5日まで滞在したが、その間、少しだけした仕事以外では、エヴァンジェリスト氏は、宿泊したホテル・オークラ・アムステルダムから、殆ど外に出ようとはしなかった。

怖かったのである。アムステルダムの街が怖かったのだ。

……..路地裏では、大柄のオランダ人が、服の胸ポケットから麻薬とピストルとを取り出し、それを背の低いフランス人らしき男に金と引き換えに渡している…….

…….アムステルダムの街に、そんな光景を想像し、エヴァンジェリスト氏は、ホテルの部屋でテレビを見たり、ホテルの部屋の窓からアムステルダムの街を眺めて観光気分を味わおうとしたのであった。

しかし、勇気を振り絞って、少しだけ外出はしたのである。

アムステルダムの街は怖かったが、ずっとホテルの部屋にいたことが、妻にバレると猛烈に怒られるのだ。オランダのギャングより、妻の方が怖かったのだ。

妻に云わなければバレることはないが、正直者のエヴァンジェリスト氏は、何もかも夫人に報告するのだ。



オランダにピーター・アーツやアーネスト・ホーストがいることを知っていたら、もっと怖かったかもしれない。

アーツもホーストも既にキックボクサーとしてデビューしていたが、当時、「K-1」は始まっておらず、エヴァンジェリスト氏は、彼らのことを知らなかった。

アーツにせよ、ホーストにせよ、ギャングでもなければ、荒くれ者でもなかったであろうが、ハイキックを振り回す彼らのような大きな男たちが、オランダにはいる、と思うと、チビリそうになるではないか。




クリス・ドールマンは、その年(1989年)、第2次UWFで前田日明と対戦していたが、テレビ放映のないUWFをエヴァンジェリスト氏は見ておらず、ドールマンのことはよく知らなかった。

ドールマンは、1976年、猪木さんと戦ったウイリアム・ルスカのセコンドとして初来日し、戦意喪失のルスカにタオルをリングに投げ込んだらしい。その様子はテレビで見ていたが、見ていたのはルスカであり、ドールマンのことは認識していなかった。

ドールマンは、格闘家ではあるが、用心棒をしており、その顔役でもあったようだ。

当時、ドールマンのことを知っていたら、エヴァンジェリスト氏は、アムステルダムのことをもっともっと怖がったかもしれない。




いやいや、エヴァンジェリスト氏は、そうとは認めまい。

エヴァンジェリスト氏は、アマチュア・プロレスラーの強豪だ。アーツもホーストも、ドールマンも怖くなんかない、と云ったであろう。

猪木さんが、ルスカを仕留めたように、エヴァンジェリスト氏も、彼らを難なく仕留める自信はある、と云ったであろう。

アムステルダムの街で騒ぎを起こしたくはないが、ギャングや用心棒と対峙すると、本能的に戦ってしまい、彼らの肋骨の5本や6本は折ってしまうであろう自分が怖い、そう云ったであろう。

エヴァンジェリスト氏は、何しろ、女性を襲った暴漢を一切、手を触れることなく逮捕したこともある、伝説の強者であったのだ。




「ギャングよ、来るなら来てみろ!」

心の中でそう叫びながら、エヴァンジェリスト氏は、アムステルダムの街を散歩した。




(続く)




2017年7月4日火曜日

アムステルダムで『彼女』に会った(その2)【ヨーロッパ出張記】








2017年7月3日も、東京は暑い。エヴァンジェリスト氏は、やはりバテ果てている。



アムステルダは、怖かった。いや、怖いと思い込んでいた。

1989年7月2日(今から28年前だ)に到着したアムステルダムには、7月5日まで滞在した。宿泊したのは、ホテル・オークラ・アムステルダムである。

出張であったが、アムステルダムでの用は、大したものではなく、7月2日も3日も4日も暇であった。

しかし、エヴァンジェリスト氏は、ホテル・オークラから余り外出しなかった

怖かったのである。アムステルダムの街が怖かったのだ。

アムステルダムの前に滞在したパリで、関係先の会社の人(日本人)に散々、脅されていたのである。

「エヴァンジェリストさん、アムステルダムは怖いですよ。麻薬は合法だし、路地裏ではピストルを売ってるんですよ」

そう云われたのである。

麻薬が合法だということは聞いたことがあった。

路地裏でピストルを売っているかどうかは知らなかったが、7月2日に着いたアムステルダムは、夏だというのに寒風が吹き、通りに棄てられた紙くずが舞い、路地裏に吸い込まれていった。

……..日曜日なので、商店は殆ど閉まっており、人影のないように見える路地裏では、大柄の体の胸ポケットからピストルを出したオランダ人が、背の低いフランス人らしき男から金を受け取っていた……..




…….アムステルダムは、そんな光景を連想させる街であった。見事に洗脳されてしまったのであろう。

だから、エヴァンジェリスト氏は、言葉は理解できなかったが、ホテルの部屋でテレビを見たり、ホテルの部屋の窓からアムステルダムの街を眺めて観光気分を味わおうとした。




アムステルダムは、赤い街であった。それが、エヴァンジェリスト氏の印象である。



塔が並んでいる建物は、教会であろうかと思っていたが、国立美術館であったのではないかと思う。



今なら、Google Mapでできるような観光をしていたのである。情けない。

いや、エヴァンジェリスト氏は、ただ情けないだけの男ではなかった。



(続く)






2017年7月2日日曜日

アムステルダムで『彼女』に会った(その1)【ヨーロッパ出張記】



2017年7月2日、東京は暑い。エヴァンジェリスト氏は、バテ果てている。



ヨーロッパは、涼しかった。いや、寒い程であった。

1989年7月2日(今から28年前だ)、アムステルダム中央駅前の橋を渡る時、革ジャンを着てオートバイを走らせる若者をエヴァンジェリスト氏は見た。




夏である。しかし、革ジャンが相応しい季節であった。涼しいというよりも寒いといった方が正しいと云えた。

フライドポテトが美味しかった。



宿泊したホテル・オークラ・アムステルダムの部屋の窓から見るアムステルダムの街も寒々としていた。




船で行く運河も寒々としていた。




(続く)



















2017年7月1日土曜日

「亀になれ!」【真のパラダイム変換】




「私は、ロボットとかAIには関心がない、と幾度も云っているだろうに!」

「うぬぼれ営業」氏からの深夜のメールに、エヴァンジェリスト氏は怒りを隠さなかった。




「しかし、普段は、不満があってもそれを表に現すことができないカレが、珍しく『少々不満があり、メールさせて頂きます』としてきたことは、評価はしてやってもいい」

怒りが鎮まった訳ではないようだが、同僚の「うぬぼれ営業」氏の『変化』を評価はしているようでもあった。

「とはいえ、『うぬぼれ』やビエールだけではなく、世の多くの者が、ロボットだのAIだの騒ぐことが、理解できない。私が関心があるのは、コイツの方だ」

と云うと、エヴァンジェリスト氏は、自分のパンツから首を出している『亀』の頭を優しく撫でた。

「皆、ロボットやAIに期待をしながら、その一方で、ロボットやAIに、人類が支配されるようになるのではないかとか、滅ぼされるとか、心配しているようだが、何を今更だ。なあ、『亀』よ」

撫でられ、摩られ、『亀』は、心地よさそうに、目を細めていた。

「ロボットやAIが支配する世界になったとしても、それは『パラダイム変換』ではないのだ」

段々に心地よさが増してきた『亀』は、涎を垂らし始めた。

「既に、この世は、ロボット社会になっている、と云うか、もうロボットに支配されてしまっていることに、誰も気付いていないとは、情けない」

『亀』の涎を時々、ティシュで拭きながら、エヴァンジェリスト氏は続けた。

「ロボット社会になっている、と云うと、皆、ロボットやAIが既に多く使われていることと思うのであろうが、その程度の理解しかできないのも、まあ、仕方あるまい。彼ら自身がロボットなのだから」

『亀』を摩り続けていたが、必要以上に快感を与えて、白い泡を吹かぬよう、気を付けた。

「多くのサラリーマンが、そして、多くの民が、会社や政府に素直に従っている。SOXだの(SEXではないぞ)、コンプライアンスだの、セキュリティだのに縛られ、その正当性に殆ど何の疑問も持たず、『決りだから』と従っているのだ。彼らは既に、ロボットなのだ。そうだろ、『亀』よ」

と語りかけられた『亀』は、エヴァンジェリスト氏の話が真面目で面白くなく、また、白い泡を吹かせてももらえず、不満なのか、パンツの中に首を引っ込めた。

「彼らは既に、彼ら自身がロボットなのだから、『ロボットやAIに、人類が支配される、滅ぼされる』も何もないもんだ。皆に、云いたい。『亀になれ。ロボットから脱皮して、亀になれ』と。それこそが、『パラダイム変換』なのだ。皆、『亀』となり、本能のままに生きるのだ!

そう叫ぶエヴァンジェリスト氏の目は潤んでいた。









「ロボットよ、『嘘』をつけ!」【「うぬぼれ営業」氏、不満爆発】




「少々不満があり、メールさせて頂きます」

「うぬぼれ営業」氏は、勇気を振り絞って、メールを書き始めた。

「お二人のロボットに関するご発言について、です」

エヴァンジェリスト氏とビエール・トンミー氏に対して、である。

「お二人は、大事なことをお忘れではないかと思うのです」

マダム・ウヌボーレは、夫の股間で縮こまっている、夫婦で飼う『亀』の頭を撫でていた。珍しく本音をぶつけようとする夫を、『頑張れー!』と励ましていたのだ。

海が『超個体』という一種の生命体だ、ということなんかは、何を仰っているのか、ボクには分りませんが、ロボットが進化をすれば、その内、労働者としての権利を主張するようになるかもしれない、というのは、その通りだと思います。人間であろうと、ロボットであろうと、会社から自分の役割以上の仕事をさせられ、毎度のように深夜残業、徹夜を強いられるのはおかしい、と思います。絶対におかしいと思います!




メールしている内容は、エヴァンジェリスト氏への不満というよりも、自身の現状に対する不満ではないか、と疑問を抱いていたように見える『亀』の頭を、マダム・ウヌボーレは、『よしよし』とさすった。

「しかし、ロボットやAIは、自らに『死』を創るようになるであろう、というのは、その通りだと思います」

何だか、不満を述べるのではなく、むしろ賛成しているではないか、という嘆きから萎え始めたように見える『亀』を、マダム・ウヌボーレは、『ぺん!』と叩いた。

ロボットに、『Hentai-AI』を与えてやろう、というのも、なるほど、と感心しました」




いつものように弱気になり始めた「うぬぼれ営業」氏同様、萎縮して「うぬぼれ営業」氏のパンツの中に隠れ始めた『亀』の首を、マダム・ウヌボーレは、『ギュッ!』と握ってパンツから引き出した。

「しかし、しかし、なんです!」

「うぬぼれ営業」氏は、再度、勇気を振り絞った。

「ロボットに必要なのは、『死』や『Hentai-AI』だけではないと思うのです」

『亀』はいきり立ち始めた。

「ロボットには、『嘘』も必要だと思うんです」

『亀』は青筋を見せ始めた。

「ロボットが真の『生』を得るには、『嘘』も必要です。『嘘』をつけるようになって初めて、『生きている』存在となるのです。正確無比、間違ったことは絶対しないというところから脱して、『嘘』をつくようになってようやく、ロボットも『生々しい』存在となるのです」

『硬直』した『亀』の頭に、マダム・ウヌボーレは、『もっと頑張れえ!』と励ましのキスをした。

「ロボットも、仕事で手抜きをしているのに、そんなことはしていない、と『嘘』をつくようになるのです。浮気しているのに、妻に、君一筋だ、と『嘘』をつくようになるのです。こうして、ロボットも『機械的』存在から『生きた』存在となるのです。『死』や『Hentai-AI』させあればいい、というのは間違っています!『嘘』もつけるようになってようやく、ロボットも『生きた』存在となるのです!

「うぬぼれ営業」氏が不満を爆発させたことで満足したのか、『亀』の頭も興奮に汗まみれで、ぐしょぐしょになっていた。



マダム・ウヌボーレは、夫に『頑張ったね』と云い、『亀』の頭をティッシュで拭ってやったのであった。