「私は、ロボットとかAIには関心がない、と幾度も云っているだろうに!」
「うぬぼれ営業」氏からの深夜のメールに、エヴァンジェリスト氏は怒りを隠さなかった。
「しかし、普段は、不満があってもそれを表に現すことができないカレが、珍しく『少々不満があり、メールさせて頂きます』としてきたことは、評価はしてやってもいい」
怒りが鎮まった訳ではないようだが、同僚の「うぬぼれ営業」氏の『変化』を評価はしているようでもあった。
「とはいえ、『うぬぼれ』やビエールだけではなく、世の多くの者が、ロボットだのAIだの騒ぐことが、理解できない。私が関心があるのは、コイツの方だ」
と云うと、エヴァンジェリスト氏は、自分のパンツから首を出している『亀』の頭を優しく撫でた。
「皆、ロボットやAIに期待をしながら、その一方で、ロボットやAIに、人類が支配されるようになるのではないかとか、滅ぼされるとか、心配しているようだが、何を今更だ。なあ、『亀』よ」
撫でられ、摩られ、『亀』は、心地よさそうに、目を細めていた。
「ロボットやAIが支配する世界になったとしても、それは『パラダイム変換』ではないのだ」
段々に心地よさが増してきた『亀』は、涎を垂らし始めた。
「既に、この世は、ロボット社会になっている、と云うか、もうロボットに支配されてしまっていることに、誰も気付いていないとは、情けない」
『亀』の涎を時々、ティシュで拭きながら、エヴァンジェリスト氏は続けた。
「ロボット社会になっている、と云うと、皆、ロボットやAIが既に多く使われていることと思うのであろうが、その程度の理解しかできないのも、まあ、仕方あるまい。彼ら自身がロボットなのだから」
『亀』を摩り続けていたが、必要以上に快感を与えて、白い泡を吹かぬよう、気を付けた。
「多くのサラリーマンが、そして、多くの民が、会社や政府に素直に従っている。SOXだの(SEXではないぞ)、コンプライアンスだの、セキュリティだのに縛られ、その正当性に殆ど何の疑問も持たず、『決りだから』と従っているのだ。彼らは既に、ロボットなのだ。そうだろ、『亀』よ」
と語りかけられた『亀』は、エヴァンジェリスト氏の話が真面目で面白くなく、また、白い泡を吹かせてももらえず、不満なのか、パンツの中に首を引っ込めた。
「彼らは既に、彼ら自身がロボットなのだから、『ロボットやAIに、人類が支配される、滅ぼされる』も何もないもんだ。皆に、云いたい。『亀になれ。ロボットから脱皮して、亀になれ』と。それこそが、『パラダイム変換』なのだ。皆、『亀』となり、本能のままに生きるのだ!」
そう叫ぶエヴァンジェリスト氏の目は潤んでいた。
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