2017年7月24日月曜日

アメリカに自由はあったか(その8)【米国出張記】



(参照:アメリカに自由はあったか(その7)【米国出張記】の続き)



1989年6月21日の夜も(2017年の今から28年前のことだ)、『(Compri)Hotel』の快適なベッドで十分な睡眠をとったエヴァンジェリスト氏は、翌朝、上司、後輩と一緒にホテルのレストランで朝食を摂り、部屋に戻った。

そして、「う◯こ」をした。

バス・トイレも広く、綺麗であった。




そこで、快適に「う◯こ」をした。そして、「う◯こ」を流した。

グゴゴゴ、という音がして、「う◯こ」は流れたが、立ち上がり、振り返ってみた便器の中に異常を見た。

便器の中の水位が低いのだ。

まさか、と思った。詰ったのか、と思った。

そこで、もう一度、水を流した。

…….と、今度は水位が通常よりもずっと高くなったのだ。

やはり詰ってしまったのだ。マズイ!

これ以上、水を流すと、水が便器から溢れ出る。マズイ!

出発の時間まではまだしばらくある。水位が下がるのを待つことにした。

そのままにしておいても良かったのであるが、出発までに「おしっこ」をしたくなるであろうと思った。

だから、なんとかつまりを解消させたかった。何度か水を流せば、詰ったものが(何が詰っているのだろう?)、流れるのではないかと思った。

しばらくして便器の中を覗くと、水位がまたかなり低くなっていた。

よし!いくぞ。男は勝負だ。

水を流すレバーを押した。

しかし、直ぐに勝負に負けたことを理解した。

水位は、あっという間に上ってきたのだ。

マズイ、マズイ、マズイ!止れ、止れ、止れえええ!

しかし、水は人の云うことを聞かない。水位はどんどん上り、便器の上端近くまで来た。

そして、水は、躊躇することなく、便器の上端を超えた。

エヴァンジェリスト氏は、立ち竦んだ。水が、便器から溢れ出るのをただただ見守るしかなかった。

バス・トイレの床が、みるみる濡れていった。

そこで、エヴァンジェリスト氏はようやく我に返った。

バスタオルを手に取り、必死で床を拭いた。拭くというよりも、バスタオルに水を吸収させようとした。

しかし、バス・タオル1枚では、吸収しきれない水の量であった。

水を吸収させては絞り、絞ってはまた床から水を吸収させる、と繰り返した。

エヴァンジェリスト氏は、パンツとシャツ姿であった。その姿で、バス・トイレの床を拭いては、バスタブでバスタオルを絞るを繰り返した。

惨めな姿だ。当時(1989年頃)、エヴァンジェリスト氏は、スリムでハンサムであった(今風に云うなら、イケメンであった)。

そのイケメンが、下着姿でオロオロしているのだ。

「なんてこったい!」

情けなかった。自分が悪いのだが、誰かに恨みを云いたかった。

その内に、出発時間となった。

スーツを着、部屋を出る前に、エヴァンジェリスト氏は、部屋の机の引き出しにあったレターヘッド(便箋)に、

「OUT OF ORDER」

と書いた(要は、『故障中』と書いたのだ)。

バス・トイレの床をまだ少し残る水を避けながら、便器まで行き、『OUT OF ORDER』と書いたレターヘッドを便器の上に置いた。

『OUT OF ORDER』としたが、それが正しいのか疑問はあった。故障したのではなく、故障させたのだ。故障ではなく、ただ便器を詰まらせたのだ。

エヴァンジェリスト氏は当時も今も、正直者である。だから、『便器を詰まらせました』と知らせたかった。しかし、それを英語でどう表現していいのか分らなかったのだ。

バス・トイレの床の水は、ある程度は掬い取った。だから大丈夫とは思ったが、階下に水が漏れないかも心配であった。

しかし、仕事がある。今、水漏れにかまけている暇はなかった。

大丈夫さ、と思い込むことにして、エヴァンジェリスト氏は部屋を出た。

「京成上野」を知らぬタクシーに乗り、JAL便に乗り遅れた。そして、快適ではあったが、JAL便の代りに乗ったシンガポール航空機内では、イケメン『スチュワード』に英語で話し掛けられ閉口した。

何とか到着したロサンゼルス空港では、公衆電話の掛け方に戸惑い、ホテルの無料送迎バスに乗れなかった。代りにタクシーに乗ろうとしたが、タクシー乗り場でも右往左往させれた。ホテルのフロントでは上司の部屋番号を教えてもらえなかった。

エヴァンジェリスト氏の「世界一周の旅」(世界一周の出張)は、苦難続きであった。

米国の提携先企業では、想像以上に英語ができない上司の為に、通訳でないフリをして通訳をさせれる羽目になった。

予期できていた苦難ではあったが、疲れた。自分だって、そんなに英語が出来る訳ではなかったからである。

そして今、旅先で、それも言葉も満足に通じない外国で、トイレを詰まらせ、バス・トイレの床を水浸しにしてしまったのだ。

自分は呪われている、と思った。

そう思ったが、それを噯(おくび)にも出さず、いやいやトイレを詰まらせたことをホテルにも上司も云わず、素知らぬ顔をして、エヴァンジェリスト氏は、「(Compri)Hotel』」を後にしたのであった。

「『(Compri)Hotel』さん、ごめんなさい」

今でもエヴァンジェリスト氏はそう思う。しかし、ロサンゼルスの「(Compri)Hotel」は今、Hiltonの『Double Tree』というホテルになっているようであるので、残念ながらエヴァンジェリスト氏のをお詫びに気持ちを伝える相手はもうないのである。

『(Compri)Hotel』にトイレを詰まらせたことをきちんと伝えなかったバチが当たったのか、エヴァンジェリスト氏の苦難はまだまだ続くのであった。



(続く)






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