アムステルダムに行く前、そのアムステルダムに行く前に行ったパリに行くその前に、エヴァンジェリスト氏は、アメリカ(米国)に行ったのであった。
勿論、出張である。
1989年(2017年の今から28年前である)のことであった。エヴァンジェリスト氏、35歳の年である。
日本から米国に発ち、米国からフランスに回り、フランスからオランダに入り、オランダからアンカレッジ経由で日本に戻ったのであった。「世界一周の旅」と云ってもよかったかもしれない。
この「世界一周の旅」は、苦難の旅であった。
アメリカに発ったのは、1989年6月20日である。
「世界一周の旅」は、最初から、苦難の旅であった。
エヴァンジェリスト氏は、多摩地区の自宅(勿論、賃貸マンションだ)の最寄駅からタクシーに乗った。
約2週間の海外出張の為、旅行鞄に荷物は一杯入っており重かった。だから、京成上野まではタクシーに乗ることにしたのだ。
「京成上野までお願いします」
乗ったタクシーの運転手さんに、そう云った。
「ええ?」
「あ、京成上野駅までお願いします」
「ケイセイウエノ?」
「ええ、京成上野です」
「分るかなあ…..」
「……..」
京成上野を知らないのか…..心配になった。
心配になったが、タクシーはもう動き出している。乗りかかったタクシーだ。
京成上野は、知らなくとも無名の場所ではない。まあ、近くまで行けば分るさ(ナビはまだない時代であった)。
そう高を括った。
中央高速に上り、新宿までは順調に走った。しかし、新宿に入ると、つまり、首都高速に入ると途端に渋滞となった。
少し心配になった。だが、まだ時間は十分あった。
しかし、渋滞は凄まじく、前に殆ど進めない。
「このままだとアレですから、もう少し先で降りましょうか?」
疲れてきていた運転手が、そう声をかけてきた。
「ええ、お願いします」
成田まで間に合うように行けるか心配になってきていた。
首都高速を降りたタクシーは、昭和通りを走っていた。
「こっちでいいんですよね?ええ、大丈夫ですよね?」
そう訊かれても、運転免許を持たぬエヴァンジェリスト氏には、都内の道路事情は分らない。
「昭和通りも渋滞しているので、脇道を行っていいですか?」
「ええ」
心配であったが、そう答えるしかない。
そうして、ようやく上野まで来た。JR上野駅がそこにある。京成上野駅は、もう少し先を行き、左折したところだ。
搭乗予定のJAL便に乗るのに間に合う「スカイライナー」の出発時刻までもう少しだが、まだ間に合う。ホッとした。
しかし、その時であった。
タクシーは、JR上野駅手前で右折したのだ。
何が起こったのか、分らなかった。
「ええ!」
思わず声を発した。
「は?」
運転手さんは、心配そうな声を出した。
「ち、ち、違います!京成上野は、コッチではなくアッチです!」
エヴァンジェリスト氏は必死であった。時間に余裕はないのだ。
「え!そうなんですか!?」
運転手さんも慌てた。
「急いで下さい!」
「ええ、でも……」
こうして、エヴァンジェリスト氏の苦難の「世界一周の旅」は始ったのである。
(続く)
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