(参照:アメリカに自由はあったか(その11)【米国出張記】の続き)
「サンペイ、俺、おにぎりと味噌汁、喰いてえ」
コーナーの席に座ると同時に、上司が叫んだ。
1989年6月22日(2017年の今から28年前のことだ)、夜の12時過ぎ、いや、その時刻は既に6月23日だ。12時過ぎというよりも午前1時に近い時間である。
ホテル「Grand Hyatt New York」を出て、ニューヨークの夜の街を、『俺の街』顔でさっさと歩く上司についてエヴァンジェリスト氏が到着した店でのことであった。
「いらっしゃーい、オツカレさまあ」
店のママの元気な声が迎えてくれた。日本人ママのスナックであった。
サンペイ先輩ともう一人のニューヨーク駐在の先輩が笑顔で待っていた。
「大変でしたねえ」
「おー」
と答え、上司は云った。
「サンペイ、俺、おにぎりと味噌汁、喰いてえ」
エヴァンジェリスト氏は、驚くというか、呆れてしまった。
何を無茶を云うのだ。ここはニューヨークだ。しかも、深夜なのだ。
だが、さすが、「三木のり平」ばりに宴会部長の異名をとるサンペイ先輩であった。
「わっかりましたあああ」
と叫ぶと、サンペイ先輩は、スナックを飛び出した。
そうして、10分余り後、サンペイ先輩は、上司が望む「おにぎりと味噌汁」を持ち帰ってきた。
驚いた。自分にはできない。そんなことを要求することも、それに応えることも。呆れたものだ、と思ったが、エヴァンジェリスト氏もサンペイ先輩が何処からか入手した「おにぎりと味噌汁」を美味しく頂いた。
「おにぎりと味噌汁」を食すると、
「唄うぞお!」
と、上司はカラオケを始めた。そこは、カラオケ・スナックであった。
上司と先輩たちは、アルコールも浴びるように飲んだ。エヴァンジェリスト氏は、コークを飲んだ。
歌を唄い、アルコールを浴び、コークを飲む時間が過ぎていった。
疲れた。エヴァンジェリスト氏は、もういい加減ホテルに戻り、眠りたかった。
エヴァンジェリスト氏が歌ったのは1曲だけであった。杉良太郎の「明日の詩」だ。
コークも2-3杯飲んだだけで、もう欲しくはなかった。
ロサンゼル空港で、飛行機のトラブルで4時間近く待たされ、そこからニューヨークまでの5時間半のフライトで疲れた。
ホテル「Grand Hyatt New York」に到着するなり、上司に、サンペイ先輩と待合せの店まで連れて行かれたものの、その店は既にその夜は閉店しており、ホテル「Grand Hyatt New York」戻った。その時点で、エヴァンジェリスト氏はもう倒れてしまいそうであった。
しかし、あくまでサンペイ先輩に会うことに拘る上司に『待機』を命じられ、サンペイ先輩と連絡が取れると、再び、夜のニューヨークの街を歩かされ、カラオケ・スナックまで来たのだ。
ニューヨークまで来て、何故、日本にいるのと何ら変りのない日本人ママのカラオケ・スナックに来ないといけないのだ。
お腹は空いていたので、サンペイ先輩手配の「おにぎりと味噌汁」は有り難かったが、その後のアルコール(エヴァンジェリスト氏は、コーク)とカラオケに、エヴァンジェリスト氏の肉体は限界を越えようとしていた。
ああ、これもバチが当たったのだ。エヴァンジェリスト氏は、そう思った。
成田からのJAL便に乗り遅れ、ロサンゼルスのホテル「(Compri)Hotel」のトイレを詰まらせ、そして、そのことを「(Compri)Hotel」にきちんと伝えなかった。
そういったことのバチを今、ニューヨークで受けているのだ。
だが、もう疲れ果てた。ああ、眠い!
エヴァンジェリスト氏の「世界一周の旅」(世界一周の出張)は、苦難なのであった。
午前3時過ぎ、自身も疲れた上司は、ようやく
「帰るかあ」
と云い、エヴァンジェリスト氏と上司と二人の先輩は、スナックを出た。
サンペイ先輩は、エヴァンジェリスト氏と上司とをホテル「Grand Hyatt New York」まで送ってくれた。
そう思ったが、事情は少々違っていた。ニューヨーク郊外のアパートに住むサンペイ先輩は、午前3時過ぎでは、当然、終電に間に合わず帰宅できなかったのだ。
そして、してはいけないことであったが、サンペイ先輩は、ホテル「Grand Hyatt New York」の上司の部屋にこっそり泊ることにしたのだ。
そんなことをしていいのか、と常識派のエヴァンジェリスト氏は思った(自分に部屋に泊る、と言われなく、ほっとはしていたが)。
しかし、仕方がなかったし、泊るというよりも、ちょっと上司の部屋に立ち寄る、という言い訳がサンペイ先輩の理屈であったかもしれない。
確かに、泊るという程の滞在時間ではなかったのだ。
ホテル「Grand Hyatt New York」の部屋に戻る時、既にグデングデンになっていた上司に代り、サンペイ先輩が云った。
「じゃ、7時にロビーで待合せな」
もう4時近かった。3時間後だ。
しかし、明日は(正確には、その日であった。6月23日だ)、仕事があるのだから仕方がない。訪問先のオフィスは、ニューヨークの郊外にあるので、そこに行くまで少々、時間を要する。
仕方がない、とは思ったが、エヴァンジェリスト氏はまだまだ甘かった。
エヴァンジェリスト氏は、「世界一周の旅」(世界一周の出張)は、苦難の旅であることをまだ十分に認識できてはいなかった。
その認識がないまま、ホテル「Grand Hyatt New York」の部屋に戻ると、ベッドに倒れ込み、直ぐに眠りについた。
ただ、目覚し時計を6時にセットすることは忘れなかった。7時の待合せなので、その前にシャワー、トイレを済ませる必要があったのだ。
こうして、エヴァンジェリスト氏は、ほんの2時間余りの睡眠についたのであった。
(続く)
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