2017年5月31日水曜日

野菜と自転車と尻の間に、そして、ドナルドが【変態老人の深謀】



エヴァンジェリスト氏は、首を捻った。

「アイツ、何云ってんだ?」

そう、唯一人の友であるビエール・トンミー氏から、意味不明なメールが来たのだ。

「君は、朝食と夕食の時に、キチンと野菜を摂っているそうだが、そんなことしていいのか?」

若い頃はスリムでハンサムだったが、今はそれも見る影がなくなったので、痩せることはなくとも、これ以上太らぬように、妻が朝食と夕食の際に忘れず野菜を出してくれる。

健康の為になることなのに、『そんなことしていいのか?』と問われても何と反応していいか、分からない。

友は更に、こうも問うて来た。

「君は月曜日から金曜日まで毎日、最寄り駅近くまで自転車に乗っているらしいが、そんなに『常用』していいのか?君も歳だから、『タツ』為に自転車に頼ることは、同い年の者として、理解できないものではないが」

駅までバスに乗ってもいいのだが、再雇用の給料は悲惨極まるものだ。

出来るだけお金は使いたくない。だから、自転車に乗っているのだ。

『タツ』為に自転車乗っているのだろうが、と決めつけてきているが、意味不明だ。

自転車に乗らないと、体を『タテテ』いることも、ままならない、とでも思っているのだろうか。





最後の質問は、もっと意味不明というか、不可解なものてあった。

「君は、アレを尻の間に挟んで運ぶことがあるらしいが、本当にそんな真似をしているのか?」

いや、正直に云うと、以前、大阪出張した際に、難波で便意を催し、堪らなくなった時、穴から少しだけ頭を出したアレを尻の間に挟んでトイレまで運んだことはある。かなり難しい行為であり、その時履いていたパンツは、結局、トイレの個室内のサニタリー・ボックスに棄てた。

しかし、そのことは、妻にも子にも誰にも話したことはない。俺だけの秘密なのだ。

どうして友はそれを知っているのだ?

「尻の間に挟んで運んだものを君は『パケ』に詰め害虫退治のスプレー缶の中に20個くらい隠しているというのは本当か?」

アイツは本当にどうかしている。尻の間に挟んで運んアレを『パケ』に包むなんて、検○でもあるまいし。ま、エヴァンジェリスト氏は、『パケ』って何のことか知らないのであったが。


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エヴァンジェリスト氏が友からのメールに首を捻っている頃、ビエール・トンミー氏は、顔だけを仰向け、眼科で処方してもらった医療用目薬をかざし、先ず、左目にさした。

キーン!

エロ画像に疲れた眼に点滴すると、そう、『キーン』と眼球全体に染み渡るのだ。この快感は何事にも代え難い。

ビエール・トンミー氏は、思った。

「目薬は俺にとっては『シャ○』である。俺は、立派な『シャ○』中毒である」

キーン!

今度は、右目に点滴した。

エロ動画にも疲れた眼に、医療用目薬は、染み渡った。







「そうだ、『ドナルド』にしよう。『目薬禁止法』が成立したら、闇で調達の際に、目薬の隠語に『ドナルド』を使おう」

変態老人は、一人、悦に入っていた。









2017年5月30日火曜日

【世紀のスクープ?】トンミー氏、タツ!?(後編)



友であるビエール・トンミー氏が、『俺は、タツ!』と云ったことを聞き、一旦は、嫉妬にかられたものの、

「仮●●●子先生が『どうか、お相手を』と云ってきたところで、アイツは半勃ちで役には立たないさ。ハハハハハ!

等と云って勝ち誇ったように笑い、エヴァンジェリスト氏は、ようやく落ち着きをみせた。

そこで、特派員はようやく口を挟むことができたのであった。

「仰ることは、殆どその通りだと思いますが、一点だけ違っているのです」




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「仰ることは、殆どその通りだと思いますが、一点だけ違っているのです」

そうして、特派員は諭すようにこう云った。

「ビエール・トンミー氏は、『選挙に立つ』、と云ったのです。選挙に立候補です」
「はあ~ん?立候補?アイツ、何を考えているんだ?」

エヴァンジェリスト氏の口の端からは、泡も呆れて、一つ、シャボン玉のようになって飛んで行った。

「何に立候補するというのだ?都議選か?それとも年内にはあるかもしれん衆議院選挙か?ああ、マンションの管理組合の理事長だな。俺が理事長になったことを羨ましがっていたからな。ハハハハハ」
「いえ、お言葉ですが、マンションの管理組合の理事長ではありません。あの方は、貴方とは違い、ちゃんとした一戸建住宅にお住いですから」
「ぶ、ぶ、無礼者おー!」
「いや、これは失敬。つい口が滑りました」
「なにい!口が滑っただとお!」
「いやいや、ま、それはいいとして」
「よくない!」
「ビエール・トンミー氏が何に立候補するかは不明ですが、政治の世界のことであることは確かです」
「本当か?毎週通っているオープンカレッジの西洋美術史講座の級長ではないのか?級長になって、●●●子先生とお近づきになろうという魂胆であろう。アイツの考えそうなことだ」
「おお、確かにそれはあの方らしい。『女教師と男子生徒とのイケナイ関係』って、その筋の映画かビデオのタイトルになりそうです」
「アイツは『プロの変態』だからな」
「貴方の仰ることには説得力があります。しかし、ビエール・トンミー氏が立候補するには、ちゃんとした理由があるのです」
「『ちゃんとした』という言葉程、アイツにに似合わない言葉はないと思うがなあ」
「立候補するのは、『目薬禁止法』設立を阻止する為なのです」
「はあ?なんじゃ、それは。『目薬禁止法』なんて聞いたことがないぞ」
「私も聞いたことがありません。しかし、どうやら一部に『目薬禁止法』を作ろうという動きがあるようなのです。利権絡みなのです」
「政権中枢にいる奴が、留学時代の遊び友だちに融通をきかせてやる、といった構図か?」
「今のところ何の証拠もありませんが、貴方の説を否定する材料もありません。その中枢にいる奴は、留学時代、遊び呆けていたので、語学習得なんて全くダメだったようですが、女性をナンパする言葉だけは覚えたという噂もなくはありません。その時のナンパ仲間が絡んでいるようなのです」
「しかし、目薬を禁止することが、どうして利権に繋がるのだ?目薬は危険ドラックではないであろうに」
「危険ドラックかどうかは知りませんが、目薬をさすことで、えもいわれぬ快感が得られるらしいのです」
「ワシなんぞは、目薬は苦痛でしかないがな。ワシは、体内に異物を入れられるのがとにかく嫌だ。だから、浣腸もゴメンだし、座薬は、それと聞いただけで、尻の穴を手で塞ぎ逃げ出すくらいだ
「世の中には、それが快感だ、という人もいるのです。私もその気持ちが全く分からない、というものでもなくはありません。貴方だって、『イヤ、イヤ』が段々、快感に変わるかもしれませんよ
「やめてくれ!アッチの趣味はない」
「無理強いはしませんが.....」
「そんなことより、何故、目薬が危険ドラックになるのだ?」
「詳しくは、当人でないと判りませんが、目薬をさされて『キーン!』となるのが、ビエール・トンミー氏にとっては、何ものにも代え難い快感のようです。『犯罪的な快感』とも云ってました」
「目薬で快感とは、やはり『プロの変態』だな」
「多分、トンミー氏の他にも、目薬で快感を得ている人たちがいるのでしょう。『人間やめますか?目薬やめますか?』と問われたら、人間をやめる者たちがいるのでしょう」
「しかし、目薬を禁止することで、どうやって利権を得るのだ?」
「闇ですよ。闇で目薬を製造し、闇で売るのです」
「当然、価格は暴騰するってことかあ。確かに利権だな」
「だから、ビエール・トンミー氏は、『目薬禁止法』設立を阻止したいのだと思います。その為に、『立つ』のでしょう」
「タツ為にタツ、ってことか」
「?」
『勃つ』為に『立つ』のであろうが、可哀想に…」
「あれ?もうお怒りではないのですね」
「怒り?ワシがいつ怒ったのだ?せいぜい頑張るように云っておいてくれ」
「応援するのですか?」
「ああ、いいだろう。友だちだからな。アイツには俺くらいしか友だちはいないからな」
「貴方だって、ビエール・トンミー氏くらいしか友だちはいないのでしょうに」

特派員の柔なか批判もものかわ、エヴァンジェリスト氏は悠然と云い放った。

「ビエールよ、変態らしく、羽毛布団でも被って選挙活動でもすればいい。ワシが選挙ポスターを作ってやろうぞ。ハハハハハ!!!」





(おしまい)




2017年5月29日月曜日

【世紀のスクープ?】トンミー氏、タツ!?(中編)




「本当なのです。トンミー氏は確かに云ったのです。『俺は、タツ!』と」

特派員が、このところ不機嫌なエヴァンジェリスト氏に報告すると、

「そんなはずはない!口だけだ。アイツももう歳だ。今更、タツことなんかあるものか!」

と、エヴァンジェリスト氏は、吐き捨てるように云ったのであった、




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「そんなはずはない!口だけだ。アイツももう歳だ。今更、タツことなんかあるものか!」

興奮して、両の口の端に泡を溜めたエヴァンジェリスト氏に、特派員は説明をしようとした。

「いえ、タツと云っても.....

しかし、エヴァンジェリスト氏の興奮は収まらない。

「ああ、タツと云っても、どうせ半勃ちだろうよ」

泡を溜めた口の右の端を微妙に上げ、皮肉な笑いを浮かべた。

「奴は、毎夜毎夜、蠢いている、と云っているが、ああ、ただフニャフニャと老蛇のようにクネっているだけだろう。鎌首を持ち上げようとしても、20度くらい上がるだけだ。どんなエロ画像を見てもな。ただ、眼を疲れさせるだけで、その結果が、眼科通いだ」





実のところは、嫉妬から暴言を吐いているに過ぎず、エヴァンジェリスト氏は、自身の舌鋒が鋭過ぎていることを知らなかった。

ピエール・トンミー氏が聞いていたら、深夜、自分の部屋を友が覗いたのかと思ったであろう。

「眼科通いだって、美人眼科医やエロ看護師目当てだろうよ。最近、太ももムチムチの元カノのアグネスに迫られちゃって、等と云っていたが、妄想だ。確かに奴は、若い頃、俺ほどではないが、女の子たちを惑わらせてはいた。しかし、今のアイツは、ただのエロ爺だ。今は、●●●子先生とやらにぞっこんらしいが、相手にされる訳がない。仮に●●●子先生が『どうか、お相手を』と云ってきたところで、アイツは半勃ちで役には立たないさ。ハハハハハ!」

エヴァンジェリスト氏は、勝ち誇った笑いでようやく落ち着きをみせた。

「仰ることは、殆どその通りだと思いますが、一点だけ違っているのです」

特派員はようやく口を挟むことができた。




(続く)





2017年5月28日日曜日

【世紀のスクープ?】トンミー氏、タツ!?(前編)




「そんなはずはない!」

特派員からの報告に対して、吐き捨てるように云った。

エヴァンジェリスト氏はこのところ、不機嫌なのだ。

「いえ、本当です。トンミー氏自身がそう口にしたのです」

Blog『プロの旅人』は、友であるビエール・トンミーのことばかり採り上げ、自分のことに触れないのだ。稀に触れても、それは、ビエール・トンミーの『妄走』の登場人部としてに過ぎないのである。

「そんなはずはない!」

もうこれ以上、友の『活躍』を見たくないからなのか、エヴァンジェリスト氏は再び、特派員の報告を否定した。

「しかし、本当なのです。トンミー氏は確かに云ったのです。『俺は、タツ!』と」
「そんなはずはない!口だけだ。アイツももう歳だ。今更、タツことなんかあるものか!」







(続く)











2017年5月27日土曜日

【目薬で逮捕?】快感の点眼(後編)




一見、大学教授風の老人紳士が眼科に通っているのは、ドライアイだからであり、その原因はパソコンで長時間エロ画像を瞬きもせず注視しているからだ。

『トシ江先生』は、そのことを知らない。老人の理知的な姿から、きっと学術書を読み過ぎた為に目が乾いたとでも思っていることだろう。

しかし、太ももムッチリの看護師は老人の本性を見抜いているようだ。

「この助平爺。そのあご髭からしてイヤラシイ」

看護師の視線は、そう云っていた。





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「この助平爺。そのあご髭からしてイヤラシイ」

視線でそう云いながら、太ももムッチリの看護師は、この日も俺を仰向かせ、胸を俺に押し付けて来た。

俺も、この日も、『興奮』した。

「助平爺め。なんだその膨らみは!いい歳をして」

押し付けた胸を通して敵意を伝えながら、看護師は顔を俺の顔に重ねて来た。

そして、左手薬指と親指で俺の右眼を上下に開かせる。

右手は、目薬をかざす。

1滴、目薬が右眼に落ちる。目薬は、重力以上の力が働いたかのように、強く俺の右眼に刺さる。

キーン!

エロ画像に疲れた眼に点滴されると、『キーン』と眼球全体に染み渡るのだ。この快感は何事にも代え難い。

きっと覚醒剤の常用者が感じる快感と同じであろう。そうである。目薬は俺にとっては『シャ○』である。俺は、立派な『シャ○』中毒である。

「うっ!.....」

看護師の胸がさらに強く押し付けられた。

「分ってるぞ。お前は、快感なのだろう。そう、アタシの胸で、ほーら、また膨らんだ。助平爺め」

いや、看護師は分っていない。

ああ、俺は助平だし、お前の胸に『興奮』しているのは事実だ。しかし、お前は分っていない。

看護師は、再び、左手薬指と親指を使い、今度は、俺の左眼を上下に開かせる。

右手に持つ目薬、また1滴、今度は左眼に落とす。目薬は、そう、彼女の意思の力で、強く俺の左眼に刺さる。

「どうだ、痛いだろう!お前だって痛みを知ればいいのだ!...アタシだって痛み、苦しんだのだ、あの時」

押し付ける胸で、俺の胸に敵意を伝える。

いや、お前は分っていない。『トシ江先生』だって、分っていないであろう。

医療用の目薬は、効く。凄く効く。

痛い程、効く。しかし、『痛い程』、ではあって、『痛い』ではないのだ。

『痛い』と云えば『痛い』が、痛くないのだ。快感なのだ。

看護師が敵意を込めて刺す目薬は、快感なのだ。

看護師が俺に何の恨みがあるのかは知らないが、効く目薬でその恨みを晴らすつもりなのかも知れないが、むしろ、それは俺の快感になるのだ。

キーン!

エロ画像に疲れた眼に、目薬は、『キーン』と染み渡る。ああ、この快感は何事にも代え難い。

目薬には中毒性がある。一旦、目薬の世界に魅入られるともうそこからは離れなくなる。目薬の快感を得るためにはどんな犯罪にでも手を出すだろう。どんな慈善事業にも手を染めるであろう。

目薬のさし過ぎで、体も蝕まれていくことだろう。『目薬を辞めますか、人間辞めますか』の標語が交番に貼られる日も近い。

友よ、エヴァンジェリスト氏よ、いつか俺は、逮捕されるかも知れない。その時は、小菅まで面会に来てくれ。君は、小菅での面会方法は知っているであろう。経験があるからな。




……….かくして、俺は、美人眼科医とエロ看護師の眼科に行って目薬を処方してもらうのである。



俺は、深夜のエロ画像に『興奮』する。

『トシ江先生』の美貌に『興奮』する。

看護師の太ももと胸に『興奮』する。

看護師の敵意の視線にすら『興奮』する。

そして、何よりも、目薬に『快感』する。犯罪的に『快感』するのだ。



(おしまい)






2017年5月26日金曜日

【目薬で逮捕?】快感の点眼(中編)



「オッカーノウエ…..」

鼻歌を口ずさみながら、老紳士が眼科から出てきたのであった。

身なり佇まいはダなンディな、一見、大学教授風のその老人が通う眼科の医師は、『トシ江先生』と呼ばれる美人の女医さんだ。

友人のエヴァンジェリスト氏にどこか似た『トシ江先生』には興味はないが、若干『興奮』はしてしまう。

それをあの女は見逃さない。看護師の女だ。

その看護師は、何故か自分に敵意を抱いている、と老人は感じる。敵意ある視線を自分に送ってくるのだ。




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あの看護師は、何故か俺に敵意を抱いている、と俺は感じる。敵意ある視線を俺に送ってくるのだ。

「この助平爺!知ってるんだぞ、お前は昔から助平だ。少なくとも高校時代には助平になっていたじゃないか」

その視線から、何故か、そう云っている声が聞こえて来るのだ。

あの看護師は、俺の高校生時代を知っているのか?

いや、そんなはずはない。

あの顔に、いや、あの太ももに見覚えがなくはないような気はする。童顔とはアンバランスなムッチリした太ももには、頬ズリしたはずはないとは思いつつも、そうしたような懐かしささえ覚えた。

だが、まだ30歳前後の看護師と還暦を過ぎた俺との間に接点はない。

過去に俺は、何人もの女をなかせてきた。泣かせた女も、哭かせた女もいる。

その数は多過ぎて、一人一人のことを覚えてはいないから、或いは、どこかで哭かせ、泣かせたことでもあるのだろうか?

太ももムッチリの看護師は、点眼する際に、これもムッチリの胸を押し付けてくる。

余り近付き過ぎると、点眼し辛いと思うが、胸が大きいから必然的に近付いてしまうのかもしれない。

或いは、敵意は反面、関心であり、無意識のうちに俺の興味を惹こうとしているのかもしれない。

俺の方も、敵意であれ、関心であれ、ムッチリな胸を押し付けられて嫌ではない。

正直に云おう。『興奮』はしてしまうのだ。看護師よ、君は正しい。確かに、俺は助平だ。

そもそも、眼科に通っていることそのものが、助平のなのせる技なのだ。

眼科に通っているのは、ドライアイだからであり、その原因は目が乾燥に敏感で涙が少なくなってきている……ということになっているが、本当の原因は別にあるのだ。

パソコンで長時間エロ画像を瞬きもせず注視しているのが、本当のドライアイの原因である。




『トシ江先生』は、この本当の原因を知らない。私の理知的な姿から、きっと学術書を読み過ぎた為に目が乾いたとでも思っていることだろう。

しかし、看護師は俺の本性を見抜いているようだ。

「この助平爺。そのあご髭からしてイヤラシイ」

看護師の視線は明らかにそう云っている。目は口ほどに物を云う、とは正しいのだ。

俺は、深夜のエロ画像に『興奮』する。

『トシ江先生』の美貌に『興奮』する。

看護師の太ももと胸に『興奮』する。

看護師の敵意の視線にすら『興奮』するのだ。



(続く)



2017年5月25日木曜日

【目薬で逮捕?】快感の点眼(前編)




「オッカーノウエ…..」

鼻歌を口ずさみながら、老紳士が眼科から出てきた。

身なり佇まいはダなンディな、一見、大学教授風の老人であったが、目はあらぬ方向を見ていた。頬は少しく引きつり、笑っているのか、正気を失くしているのか、判然としなかった。


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朝の10時過ぎだ。眼科を受診して出て来たところだ。

診察内容はいつもと一緒で、いつもの目薬を処方してもらった。その場で、点眼もしてもらった。

いつもと違うのは受診した時間である。通常は午後であるが、今日はたまたま朝一番であった。

そして、もう一つ違うものがあった。先生からの挨拶である。

いつもは、『お大事に』であるが、今日は、『お大事に。行ってらっしゃい』であった。

私は軽い違和感を感じた。

「『行ってらっしゃい』と云われてもなあ。後は帰るだけなんだけどなあ。普通の人は、診療の後、朝だと何処かに行くのかなあ。やっぱり俺は普通の人とは違うのかなあ」

……と思いながら家路についた。

俺のことをまだ『現役』だと勘違いしているようだ。

アチラの方はまだ『現役』だが、仕事からはもう完全にリタイアしているのに。

看護師と受付嬢が、俺の方を見て、小声で『大学教授....』と話していたようなので、いつもドラクロワやムンク関係の本を小脇に抱える俺のことを西洋美術史を研究する大学の先生とでも思っているのだろう。

実は毎日、暇を持て余す、ただの退職老人なのだが、あの医師は、そのことを知らないのだろう。ましてや、まさか俺が変態だとは、気が付いてないはすである。

因みに、かかりつけのこの眼科医は、看護師や受付嬢から『トシ江先生』と呼ばれている、美人の女医さんである。

しかし、『トシ江先生』に、俺は、余り興味が湧かない。

『トシ江先生』は、男なら誰でもむしゃぶりつきたくなる程の美人だし、俺だって、『むしゃぶりついて下さい』、と云われたら、そりゃ、断りはしない。

しかし、気になることがあるのだ。

『トシ江先生』は、俺の友人にどこか似ているのだ。

友人とは、エヴァンジェリスト氏のことだ。男だ。俺程ではないがハンサムだ。女装させても綺麗だろうとは思う。



しかし、いくら綺麗でもアイツの顔を間近に見ながら『興奮』したくはない。綺麗だから『興奮』はすると思う。しかし、俺の中のもう一人の俺が俺自身に、友だちで『興奮』していいのか、と問うと思うのだ。

だから俺は、『トシ江先生』が診療で俺に身を近づけて来ても『自制』する。『自制』はするが、若干『興奮』はしてしまう

それをあの女は見逃さない。

看護師の女だ。名前は知らない。

あの看護師は、何故か俺に敵意を抱いている、と俺は感じる。敵意ある視線を俺に送ってくるのだ。


(続く)



2017年5月24日水曜日

変態爺さん、眼科に現る。(後編)




今しがた、治療を終えて帰って行った老人について、看護師のアグネスが、受付をしている同僚に吐き捨てるように云ったのであった。

「あの爺さん、きっと変態よ」

同僚のシゲ代は、

「でもあの方、トンミーさんって、とっても知的に見えてよ。大学教授みたい。素敵なおじさまで一度、お茶でも飲みながらお話したいくらいだったのに」

と云ったが、アグネスは、大きく被り振り、云った。

「駄目よ、騙されたら。ドライアイになったのもね、きっと........」




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「.......きっと、深夜、ネットでエロ画像かエロ動画を見過ぎてるからなのよ」

眼科の看護師アグネスは、受付をしている同僚のシゲ代に、そう云ったが、それは、自分自身に向けての言葉のようでもあった。

「ええーっ、うそお!あの紳士がそんなことを」
「さかりのついた中学生と同じなのよ」
「ま、フケツだこと!さかりのついた中学生がナニをどうするのか知らないけれど」
「ここに通院してるのだって、院長か私が目当てなのよ」
「そうなの!?」
「院長って、美人眼科医で有名でしょ」
「ええ、トシ江先生って、ホントお美しいわ」
「私の太ももを見に通う患者さんも結構いるのよ」
「アグネスさんの太ももって、女の私から見ても素敵ですものね」
「まあ、それほどでもないけど。でも、あの爺さんは、本当に舐めるように私の太ももを見るのよ。きっと、家に帰って思い出しては何かしているのよ
「何かって、何?」
「知らないわよ、変態のすることなんか。あの爺さん、治療中から変態なんですもの」
「まあ!治療中から?」
「そうよ、ドライアイだから目薬をさしてあげるんだけど、その時、『ううーっ』って変な声出すのよ、アイツ」


「効いてるのね」
「そりゃ、効くわ。目薬といっても医療用ですものね。でも、あの『ううーっ』って声は普通じやないわ。分かるのよ」
「他の患者さんだって同じじゃないの?」
「違うの。あの爺さんの顔は、苦痛に歪みながら、どこか快感を得ている顔よ。普段、紐で縛られたり、鞭でぶたれて悦んでるのじゃないかしら」
「そんな趣味の人がいること、聞いたことはあるけど、トンミーさんがそうだったなんて!」
「そんなに虐められたいんだったら、私がほっぺた殴ったり、抓ったりしてやるわ。ハイヒールで踏んづけちゃおうかしら」
「あら、アグネスさんったら...」
「あの爺さん、点眼で体を近づけると臭うのよ。老人臭と汗とが入り混じった独特の臭いよ」
「あら、気付かなかったわ」
「あの臭いを嗅ぐと、ついムラムラ、あっ、いえ、ムカムカしちゃって、ええい、どうだ、って目薬を思いっきり、あの爺さんの眼にさしいれちゃうの」
「アグネスさん、あなたって、ひょっとして......」
「似てるのよ、あの爺さん。高校時代に私を棄てた男に」
「アグネスさん、やっぱり、あなた、トンミーさんのことを....」

シゲ代は、一人興奮を高めていく同僚が心配になった。

しかし......

「いいのよ、あんな奴、ヒィヒィ云わせてやれば」

アグネスはもう、止まらない。

「でも、アイツ、ヒィヒィ云って悦ぶんだわ。だって、ヘンタイなんだから!」
「アグネスさん.......」
「今度、ヘンタイ野郎のアソコにも目薬をきつ~くさしてやる!」


(おしまい)













2017年5月23日火曜日

変態爺さん、眼科に現る。(前編)




「あの爺さん、きっと変態よ」

看護師のアグネスが、受付をしている同僚に吐き捨てるように云った。今しがた、治療を終えて帰って行った老人のことである。

「ドライアイだなんて、変態だからよ」
「あら、高齢になると、涙不足、脂不足でドライアイになりやすいんでしょ?」

同僚のシゲ代が訊いた。




「普通はね。でもあの爺さんは違うわ」
「でもあの方、トンミーさんって、とっても知的に見えてよ。大学教授みたい」
「国保だから、大学教授なんかじゃないわ。ただの退職老人よ」
「そうかしら。じゃ、元・大学教授じやないのかしら。西洋美術史を研究してらしてよ。この間も、『マティス評伝の決定版』って本をお持ちだったわ」
「そんなのポーズよ。司書をしている友だちも云ってたわ。その子の勤めてる図書館にいつも、一見大学教授風だけと、実は変態の爺さんが来るんだって」
「どうして変態だと分かるの?」
「ドラクロワの『民衆を導く自由の女神』が表紙になってる本を見て、興奮してるんだって」
「あら、その方も随分、美術に興味をお持ちなのね」
「違うの。自由の女神ことマリアンヌの胸がはだけてセクシーなのよ。それで興奮してるんだって」
「それって穿ち過ぎじやあなくって?」
「確かなんだって、変態なのは。だって、その本を見て立ち去った後に、ティッシュが残されてたのよ。栗の花の匂いがしたそうよ」
「栗の花?」
「決定的なのは『ヘンタイ美術館』という本を借りていったことなんだそうよ」
「あらま!『ヘンタイ』?!」
「なんか司書の友だちが云ってた爺さんに雰囲気が似てるような気がするのよねえ、あの爺さんは」
「トンミーさんって、素敵なおじさまで一度、お茶でも飲みながらお話したいくらいだったのに」
「駄目よ、騙されたら。ドライアイになったのもね、きっと........」



(続く)



2017年5月22日月曜日

司書は見た!(後編)




「ウソ!ウソよ、そんなこと」

勤務先の図書館を出て、駅に向かう途中、シゲ子は同僚のトシ子に、大きくかぶりを振って抗議したのであった。

トシ子が素敵だと思っている老紳士のことをトシ子は変態だと云うのだ。

その老人が、図書館の美術コーナーで、『名画で読み解く「世界史」』の表紙を見て、鼻息を荒くしていたが、それは、その本の表紙に使われたドラクロワの『民衆を導く自由の女神』に描かれたマリアンヌのはだけた胸を見て、興奮していたのだ、とトシ子は主張するのだ。

「違う!違うわよ!あの方は、ドラクロワの芸術に興奮していらしたのよ、きっと!」

と反論するシゲ子に、トシ子は云った。

「だけどね、爺さんが立ち去った後にはね…..」






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「だけどね、爺さんが立ち去った後にはね…..」

トシ子は、鼻をつまみながら云った。

「使ったティッシュが転がっていたのよ。あー、フケツ!あんな爺さんのくせに」
「違うわ。きっとお風邪を召してたのよ」
「マリアンヌのはだけた胸に興奮した結果よ、あのティッシュは」
「あの方は、きっと大学教授でいらしてよ。西洋美術史の研究をなさってるのよ」
「あのティッシュ、栗の花の匂いがしたのよ」
「この間は、マティアス・アルノルトが書いた『エドヴァルト・ムンク』をお借りになられていたわ。パルコ美術新書から出ている真野宏子さんという方が訳した本よ」
「そんなのカモフラージュか、その真野なんとかっていう訳者に興味があるかなのよ」
「スザンヌ・フェイジェンス・クーパーの『エフィー・グレイ――ラスキン、ミレイと生きた情熱の日々』もお借りだったわ。訳者は、安達まみ、って方よ」
「それって何か裏があるわね。エフィの激しい生き方に興奮したか、エフィの妹で美少女のソフィに興奮でもしたんじゃないの。ソフィって、エフィが再婚したジョン・エヴァレット・ミレイと関係があったっていう噂もあるしね。あの爺さん、ロリコンの気もあるかもね
「トシ子、詳しいのねえ」
「あの爺さん、変態なのよ!今日は、『ヘンタイ美術館』を借りていったのよ!」
「ああ、『山田五郎』と『こやま淳子』の掛け合いで西洋美術を語っている本ね」
山田五郎』が、ダ・ヴィンチやミケランジェロよりもラファエロの方だって云っているやつでしょ。でも、あの爺さん、『ヘンタイ』という文字だけで借りていったのよ」


「あなた、酷いわ。あんな素敵なおじさまのことを」
「何が『素敵なおじさま』よ。あんな爺さんのこと、忘れるのよ。ただの退職老人なんだから」
「退職老人って、どうしてそんなこと分るの?あなた、あの方のこと、知ってるの?」
「……知らないわよ。あんな臭い爺さん」
「あら、臭かったかしら」
「老人臭と汗とが入り混じった妙ちくりんな臭いよ」
「爽やかな感じのジェントルマンだと思うけど」
「臭いのは、四六時中、パジャマを着ているからよ」
「え?.....どうして」
「ウチの図書館に来るときだって、パジャマよ」
「ええ?いつもダンディな服をお召しだったと思うけど」
「でも、あれがパジャマなのよ。寝ても起きても着てるから臭いのよ、あの爺さん」
「シゲ子、どうして、そんなこと分るの?」
「え…?だって、見れば分るじゃないの」
「そうかなあ….」
「あなたは、あの臭いは耐えられないわ。忘れなさい」
「まるで、あなたはあの方の臭いに耐えられるみたいね」
「あの爺さん、臭いだけでなく、夜な夜な蠢いているのよ。毎夜、明け方まで自分の部屋に篭って、スケベな画像をネットで見てるのよ」
「どうして?どうして、そんなこと分るの!?」
「目を見れば分るわ。目が赤いのよ。真っ赤よ。スケベな画像の見過ぎなのよ。眼科に行って診てもらったほうがいいのよ」
「あなた、おかしいわ」
「あんな変態爺さんのこと、忘れなさい!」
「変よ、そんなムキになって」
「画像だけでは物足りなくなって、ナマで見たいって…」
「あなたって、まさかあの方と…..」
「違う、違う!あんな臭いお爺ちゃんなんか、大っ嫌い!」
「お爺ちゃん…?あなた、やっぱり…..」
「違う、違う!違うってばあ!」

そう云うと、トシ子は、泣き出し、駆け出して行った。

「トシ子….」

置き去りにされたシゲ子は、同僚の咽び泣く同僚の背中がどんどん遠のいていくのを見ながら、呆然と立つ尽くしていた。


(おしまい)