俺は今、布団を被って外出している。高級羽毛布団だ。
これは夢だと思う。
夢だから早く醒めて欲しい、と思ったが、元カノの『俊子』を彷彿させるホットパンツから美脚を見せた茂子さんに会い、
「茂子さんさえいいのなら、ご主人でなく、私に抱きついて頂いても….」
とよからぬ想いを抱く等しながら着いたゴミ集積場には、茂子さんが捨てたと思しきティシュで埋ったゴミ袋があった。
忘我の俺は、それまで被っていた羽毛布団を頭上に掲げ、怒りをぶつけるように、ティシュで埋ったゴミ袋に叩きつけた。
そうして、冷静さを取り戻した俺は、ウチに戻りながら、理解した。
羽毛布団を被って外出したのは、不要となった羽毛布団をゴミ出ししに行ったのだ、と。
夢ではなかった、夢である必要はなかったのだ、と。
しかし、ウチに着き、玄関のドアを開けた時、再び、それが現実なのか、夢の中にいるのか、分からなくなった。
玄関のドアを開けた時、そこには..........
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玄関のドアを開けた時、そこには..........
ナースが立っていた。
「お帰りなさいませ、ビーちゃん様」
「うっ!......ビーちゃん…んんん….」
ナースの出迎えの言葉に、思わず、呻くような唸り声を上げた。
誰だ!?
何故、ウチにナースがいるのだ。ナースがウチにいて、何をしているのだ?
彼女が、ナースであることは、ナース服を着ていたことからも分ったが、決め手は、ナース帽だった。
しかし、ナースはもうナース帽を被らなくなっていたはずだ。なのに何故、彼女はナース帽を被っているのだ?
謎だらけだ。
ナースは、俺のことを「ビーちゃん様」と云った。何故、俺の名前を知っている?俺のことを知っているにしても、ファーストネームの「ビーちゃん様」はないだろう。「トンミー様」と姓で呼ぶべきであろう。
友だちでも恋人でもないのだから.....
と思ったところで、俺の中の「古傷」が疼いた。
友だちでも恋人でもない.......まさか、アグネスではないだろうな?
アグネスは、看護科の生徒だった。同じ高校だ。
俺の卒業したキタデハナイ高校は、普通科の他に看護科もあったのだ。
キタデハナイ高校は、戦前は女学校だった。だから、同窓会の幹部は、クマさんとかトラさんとか、おばあちゃんたちだ。
女学校だったことからまた、看護科も併設されたのであろう。
看護科も合せると、生徒の過半数は女子であった。他校の男子生徒からは、羨望の眼差しを向けられたものだ。
しかし、羨望に値するかかどうかは、女子生徒の数ではない。心ときめかしてくれる娘がいるかどうかなのだ。
実際、高校の同級生であったエヴァンジェリスト氏は、詰まらない高校生活を送ったのだ。彼の心がときめいたのは、大学に進学してからであった。
では俺は、というと、俺の心はときめきはしなかったが、心をときめかさせてしまったらしい、女子生徒たちの心を。
それも一人や二人の女子生徒の心ではなかった。
そんな女子生徒の中に、アグネスはいた。
俺とアグネスとの関係は..........
(続く)
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