俺は今、布団をかぶって外出している。高級羽毛布団だ。
これは夢だと思う。
夢だから早く醒めて欲しい、と思ったが、「快感」を誘う香り、女性の香りが漂ってきた。
頭からかぶった羽毛布団の隙間から見えてきたのは、ホットパンツを穿いた脚であった。見覚えのある美脚であった。
俺の体の異変はより激しくなり、被った羽毛布団の中は、俺の興奮で熱が篭り、ある異臭がし始めた。
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茂子さんだ!
姓は知らない。周りの奥さんたちが、『茂子さん』と呼んでいたのだ。
実のところは、『シゲコさん』と聞いただけなのだから、本当に『茂子さん』でいいのか、確証はないが、俺にとって『シゲコさん』は『茂子さん』であった。
なんか、モワモワと、いい具合に『茂っている』感じがする女性なのだ。分るかな、この感じ?
『茂子さん』とは、よくゴミ出しでお会いしている。
ゴミ出しは、密かな俺の楽しみだ。妻に命令され、仕方なく始めたものであった。
「あーた、何もやることないんだから、ゴミ出しくらいやりなさい」
「いや、男がそんなことを…」
「つべこべ云わず、やるのよ。自分が粗大ゴミとして出されたくないんだったらね」
しかし、今や俺は、ゴミ出しのない火曜日と水曜日が詰まらなくてどうしようもない程なのだ。
ゴミ集積場には、近所のマダムたちが集う。
熟女たちは(と云っても俺より若いのだが)、二の腕やふくらはぎの肉のつき方に「味わい」がある。
若妻たちは、それはもう、若い子好きの俺を無条件で滾らせてくれる。
『茂子さん』は、その若妻の中の一人であった。いや、若妻も熟女も含めたマダムたちの中でピカイチな存在であった。
羽毛布団を被っているので、顔は見えないが、茂子さんに間違いない。
ゴミ出しの時、ゴミ袋を置きながら、俺はいつも茂子さんを盗み見ていた。特に、脚を。
茂子さんは、相当の美人であるし、そこそこ以上に巨乳でもあった。
しかし、最も俺の目を引いたのは、茂子さんの脚だ。脚から腰にかけてのラインも、家に帰ってから脳裏に浮かんで来るので、俺はベッドに飛び込み、羽毛布団を頭から被り、その中で異臭を放ったことも一度や二度ではなかった。
今、何故か羽毛布団を被り、外に出て、羽毛布団の隙間から、ホットパンツを穿いた美脚を見て異臭を放ち、俺は気付いたのだ。ゴミ出しの後のシチュエーションと同じであった。
そうだ、その美脚の持ち主は、茂子さんに違いなかった。そして、その美脚は、俺の元カノ『俊子』の脚に似ていた。茂子さんは、俺のタイプだったのだ。
だが、茂子さんはどうして俺だと分ったのだろう?
頭から羽毛布団を被っているのだ。顔は見えないはずだ。
「だって、分りますわ」
俺の心を読んだのか、茂子さんが俺の疑問に答えて来た。
「トンミーさんって、ご自宅から出ていらしたではありませんの」
ああ、そこを見られていたのか。しかし、布団を被って出てくるなんて変だ、とは思わなかったのだろうか。
「そりゃ、変だと思いましてよ」
またまた俺の心を読んでいる。怪しい。
「でも、ご主人、いい匂いがするんですもの」
俺がいい匂いだなんて、ますます怪しい。そうだ、これはやはり夢なのだ。
「私の好きな『栗の花』の匂い、ふふ」
『栗の花』の匂い?どんな匂いだ?茂子さんが云うと、なんだか淫靡な感じがする。
「まあ、淫靡だなんて……ああ、この匂いを鼻につけたまま早く家に帰って、主人に抱きつきたい」
俺の匂いが消えない内に亭主に抱きつくのか?俺の匂いは『栗の花』の匂いか……..なんだかよく分からないが、やはり淫靡だ。俺は、変態としての勘でそう思った。
「茂子さんさえいいのなら、ご主人でなく、私に抱きついて頂いても….」
という思いは読んでくれず、茂子さんは訊いてきた。
「布団を着て、お出かけですの?どちらまで?」
「いや、ちょっとそこまで」
宜しければ、この羽毛布団の中に一緒に入りませんか、とは云えず、俺は曖昧な答を返した。
そうだ、俺は何処に行くのだろう?
茂子さんの率直な疑問に俺は、奇妙な現実を思い出した。
何故、布団を被っているのか、布団を被って何処に行こうとしているのか?
いや、これは奇妙な現実なのだろうか?これは夢ではないのか?
と自問している間に、茂子さんはもう俺の目の前から消えていた。
俺は、それ以上、疑問を持つことが許されず、何かに導かれるかのように、歩を進めて行った。
そして、俺はある場所に着いた。
そこは、結果として意外ではない場所であったが、そこに置かれた物と、その物に付いた残り香に、俺の体は再び、異変が生じ、被った羽毛布団の中は、俺の興奮でまたまた熱が篭り、ある異臭に充満されてきた。
そこは何処か?そこに残された物は何であったのか?
(続く)
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