俺は今、布団をかぶって外出している。高級羽毛布団だ。
これは夢だと思う。
夢だから早く醒めて欲しい、と思ったが、元カノの『俊子』を彷彿させるホットパンツから美脚を見せた茂子さんに会い、
「茂子さんさえいいのなら、ご主人でなく、私に抱きついて頂いても….」
とよからぬ想いを抱く等しながら、俺はある場所に着いた。
そこに置かれた物と、その物に付いた残り香に、俺の体は再び、異変が生じ、被った羽毛布団の中は、俺の興奮でまたまた熱が篭り、ある異臭に充満されてきた。
そこは何処か?そこに残された物は何であったのか?
(参照:羽毛布団は知っていた(その3)【変態老人の悪夢】)
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そこは、ゴミ集積場であった。
そこには、ゴミ袋が一つだけ置かれていた。ティシュで満たされた袋である。ティシュしか入っていないように見えた。
何故だ?こんなに大量のティシュを、何故だ?
花粉症なのか?鼻炎がひどくて、ひたすら鼻をかんだ結果なのか?
しかし、残り香から、俺はそのゴミの持ち主を知った。
イブ・サンローランの「オピウム」だ。『俊子』もこのフレグランスを使っていたが、『俊子』はここに住んではいない。
『俊子』に似た美脚の持ち主だ。茂子さんであることを確信したのだ。先程、会った茂子さんだ。ティッシュのゴミを棄てにきた帰りだったのだ。
茂子さんは、美脚だけではなく、使っているフレグランスも『俊子』と共通していた。
そうして、俺の頭の中は、妄想の嵐となった。
様々な甘美の『像』が頭の中を、右から左に、左から右に、上から左下に、右下から左60度上に、と飛んで行った。
俺の体にまた異変が生じていた。異臭も放ち始めた。
「茂子さんだ。茂子さんがこんな大量のティシュを!」
そう思うと、甘美な『像』は嫉妬に切り裂かれ始めた。俺の興奮は怒りに変った。
忘我の俺は、それまで被っていた羽毛布団を頭上に掲げ、怒りをぶつけるように、ティシュで埋ったゴミ袋に叩きつけた。
両肩を幾度も上げ下げし、大きく忙しなく息を吸った。
ティッシュのゴミ袋は、羽毛布団に覆われ、「オピウム」の香りは消えた。羽毛布団の放つ異臭に芳しい香りは掻き消されたのだ。
「オピウム」の香りが消え、冷静さを取り戻した俺は、ウチに向った。
ウチに戻りながら、俺は理解した。
何故、羽毛布団を被って外出したのか?
そうだ!不要となった羽毛布団をゴミ出ししに行ったのだ。
夢ではなかったのだ。夢である必要はなかったのだ。
頭から被って運ぶところに、若干の違和感を覚えなくはなかったが、俺は俺の行為に納得した。
布団を被っている姿は、異様ではあったと思うが、トラック野郎になったり、コンコルドを操縦することに比べると(夢の中のこととはいえ、未だに操縦した実感はないが)、突拍子もないレベルのものではなかった。
夢ではなかった。
しかし、ウチに着き、玄関のドアを開けた時、再び、それが現実なのか、夢の中にいるのか、分らなくなった。
玄関のドアを開けた時、そこには..........
(続く)
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