2017年5月15日月曜日

羽毛布団は知っていた(その9)【変態老人の悪夢】



玄関先でアグネスが訊いてきた。

「ビーちゃん様、何しに出掛けた?」

あ、そうだ。俺は、外出していたのだ。何をしに出掛けていたのだ?

「布団ないけど、どうした?」

布団?そうか、俺は、布団を被って外出したのだった。

「あの布団、高い布団だったよ」

そうだ。高級羽毛布団だった。

「クリーニングしなくちゃ、と思ってたのに」

クリーニング?.....俺の中の何かが疼いた。猛烈に疼いた。『異変』が生じ始めていた。

「そうだ…………」




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「そうだ......クリーニングの必要があったのだ」

ようやく俺に記憶が蘇ってきた。

「汚れたのだ。クリーニングする必要がある程、羽毛布団は汚れたのだ」

記憶は、羞恥と快感とを伴い、蘇ってきた。

「クリーニングに出すにせよ、自分で洗うにせよ、妻に知られてしまう。それだけは避けたかった」

汚れの原因も俺は思い出した。

「アグネスのせいだ。ナースになったアグネスが、俺のベッドサイドに立ったのだ」

ミニのナース服の裾から溢れ出た太ももに、ベッドに横たわった俺は冷静でいられなかった。

「ビーちゃん様、お布団ずれてる。直さなくちゃだね」

と云って、ベッドからズレ落ちそうになった布団を直すべく、アグネスは自分の上半身を、布団に、いや、ベッドに、いや、ベッドに横たわった俺の上に覆い被せてきたのだ。

2つの柔らかなものが俺の胸を圧迫し、理性の塊と云われた俺を粉砕した。

.......そうして、高級羽毛布団は汚れた。

ソノ後、俺は眠っていた。そりゃ、疲れるのだ。

俺も歳をとった。それにひきかえアグネスったら…..

んん?疑問が生じた。しかし……..

その疑問を深く追求する前に、俺の目に羽毛布団の汚れが入って来た。

マズイ!妻になんと説明すればいいのだ?

そう思うとじっとしていられなかった。

…..気付くと、俺は、羽毛布団を被って外出していた。

こうして俺は、羽毛布団を『着て』外出し、元カノの『俊子』を彷彿させるホットパンツから美脚を見せた茂子さんに会い、

「茂子さんさえいいのなら、ご主人でなく、私に抱きついて頂いても….」

とよからぬ想いを抱く等しながら、ゴミ集積場まで行ったのだ。

そこで、茂子さんが棄てたと思しきティシュで埋ったゴミ袋を見つけ、忘我の俺は、それまで被っていた羽毛布団を頭上に掲げ、怒りをぶつけるように、ティシュで埋ったゴミ袋に叩きつけたのであった。

そうして、冷静さを取り戻した俺は、ウチに戻りながら、理解したのだ。

何故、羽毛布団を被って外出したのか、というと、不要となった羽毛布団をゴミ出ししに行ったのだ、と。

そして今、俺は、事態をもっと正確に理解した。

不要となった羽毛布団をゴミ出しに行った、というのは、間違いとは云えないが、正確ではなかった。

汚れた羽毛布団をそのまま俺のベッドに置いておく訳にはいかなくなったので、棄てることにしたのだ。

ウチに戻った俺は、ナースのアグネスに出迎えられ、動揺したが、何を今更、であったのだ。羽毛布団を汚したのは、俺とアグネスであったのに。

「ビーちゃん様、何しに出掛けた?」

とアグネスに訊かれたが、

「アノ羽毛布団を棄ててきた」

証拠を隠滅し、俺は安心し、落ち着いて答えた。

その時……..

玄関の軒をパラパラと叩く音がした。

雨だ!

「そう、雨だよ。ビーちゃん様、雨、マズイよ」

ああ、そうだ、雨はマズイ。せっかく棄てた羽毛布団が雨に濡れると、不当投棄となって、ゴミ回収してもらえない。




そうすると、妻に知られることとなる。

「ビーちゃん様、雨、マズイよ」

そうだ。俺は再び、外に飛び出しって行った。



(続く)




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