2017年5月12日金曜日

羽毛布団は知っていた(その6)【変態老人の悪夢】




俺は今、布団を被って外出している。高級羽毛布団だ。

これは夢だと思う。

夢だから早く醒めて欲しい、と思ったが、元カノの『俊子』を彷彿させるホットパンツから美脚を見せた茂子さんが捨てたと思しきティシュで埋ったゴミ袋に、それまで被っていた羽毛布団を頭上に掲げ、怒りをぶつけるように、ティシュで埋ったゴミ袋に叩きつけた。

そうして、冷静さを取り戻した俺は、ウチに戻りながら、羽毛布団を被って外出した理由を理解した。

不要となった羽毛布団をゴミ出ししに行ったのだ、と。

しかし、ウチに着き、玄関のドアを開けた時、再び、それが現実なのか、夢の中にいるのか、分からなくなった。

玄関のドアを開けた時、そこには、

「お帰りなさいませ、ビーちゃん様」

というナースが立っていた。

そのナースは、アグネスだった。

アグネスは、俺の卒業したキタデハナイ高校の看護科の生徒であった。

俺とアグネスとの関係は..........





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俺とアグネスとの関係は..........


うーん........よく覚えていない。

エヴァンジェリスト氏に云わせると、俺は驚異の記憶力、ミスター・メモリーなんだが、アグネスについては、何故か、記憶がまだらだ。

アグネスが、香港からの留学生であったことはハッキリ記憶している。

日本語は、たどたどしいところはあったが、意志の疎通は十分にできた。

制服が小さかったのか、或いは、後の女子高生たちがするようになったように、スカートは、腰の部分を畳んでいたのか、かなりのミニであった。

男子生徒たちは(実は男の先生たちもなのだが)、アグネスと話していても、目は彼女の太ももにいっていた。恥ずかしながら、俺も例外ではなかった。




目に焼き付いたアグネスの太ももの像が消えぬ内に、自宅の自分の部屋に駆け戻ったものであった。

おれの変態は、アグネスの太ももに形成された要素もあると思う。

しかし、俺は普通科、アグネスは看護科なのに、どこで俺たちは接点を持ったのであったか?

勿論、アグネスの方が俺に心をときめかせたことは間違いないので、彼女の方から話しかけてきたのだと思うが、そこから俺とアグネスは付き合うようになったのだろうか?

そこが曖昧なのだ。

アグネスが、丘の上に行き、ひなげしの花で一人、占っていたことは知っている。

俺の心を占っていたのだ。

「来る?来ない?」

と。


草原で、レンゲの花を枕に、小川のせせらぎを聞きながら居眠りをしていたアグネスの姿も知っている。

俺も一緒に高原にいたのだろうか?

アグネスは、夜になると、星に願いをかけていたことも知っている。

「好きな人に(俺のことだ)どうぞ会わせて」

と。

俺は、そんなアグネスの想いに応えたのだろうか?

そこのところの記憶が欠落しているのだ。

アグネスの想いに応えなかったのだとしたら(話をした程度では想いに応えたことにならない)、それは彼女を傷付けたことになる。

アグネスの想いに応えたのであったとしても、俺は彼女を傷付けたのであろう。

その後、つまり高校卒業後、俺は上京し、アグネスを彼の地に置き去りにし、東京で他の女にうつつを抜かすようになったのだ。

だから、記憶は曖昧ではあるが、いずれにしても俺はアグネスを傷付けたように思う。そう感じているのだ。アグネスは、俺の「古傷」なのだ

そのアグネスが、44年の時を経て、今、俺の前に立っている

俺のウチの玄関で俺を出迎えているのだ。

「お帰りなさいませ、ビーちゃん様」

というナースは、そうアグネスだ!

何故、アグネスは、ここにいるのだ?


(続く)







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