拉致されたものの救出され、コンコルドに乗って帰国の機上でのことであった。
ビエール・トンミー氏は、『彼女』を和室に連れ込み、『いよいよ』という時、機体が大きく傾いた。
誰か分らぬ者がコンコルドを操縦しているようで、フランス人CAに
「どうにかして下さい、トンミー様!」
と懇願された、コックピットに向かう途中、ビエール・トンミー氏は、元カノや嫌いだった元上司に遭遇したが、CAに襟首を掴まれ、コックピット方向に引きづられていったのであった。
(参照:コンコルドは舞う(その3)【変態老人の悪夢】の続き)
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コックピットに向うには、ファーストクラスの席を通る必要がある。
コンコルドにファーストクラスがあったのか、という疑問も湧かないでもなかったが、現にファーストクラスは、そこにあったのだ。
ファーストクラスには、3年前まで勤めていた会社の役員連中が座っていた。
威張ることと社内営業・社内手続にだけ長けた無能な奴らだ。
同じ拉致被害者なのに、何故、役員たちはファーストクラスに乗っているのか納得がいかない。金を出して乗っているのではないのだ。
ましてや俺はもう、奴らの部下ではないのだ。
しかも、奴らが摂っている機内食は、ビジネスクラスやエコノミークラスのものとは、明らかに異っていた(俺のクラスは、エコノミーだったのだろうか)。
ウニ丼を食べている者、座席横で板前が握る寿司を頬張る者、A5和牛を使ったじゃぶじゃぶやすき焼きを食べている者もいた。
機内なのに、板前がいることや、携帯コンロながら、じゃぶじゃぶやすき焼きという目の前で火を使う料理を食していることへの違和感よりも、馬鹿な奴らへの嫌悪感の方が強かった。
機体が右に左に大きく傾いだのに、板前やコンロが大丈夫だったのか、という疑問も嫌悪感に打ち消された。
アルコールは、ビールでなく、ワインを飲んでいることにも何だか腹がたった。
そのワインもシャトー・メルシャンならまだしも、かの有名なボルドーのワイン、「シャトー・ロック・モーリアック」であった。
「モーリアック」だなんで、フランソワ・モーリアックの研究で有名な我が悪友エヴァンジェリスト氏に、奴らは籠絡されたのか、と更に腹立たしかった。
尤も、俺は後方席ながら和室(個室)を使って、役立たずの役員たちよりも、イイメをみようとしていたのではあるが(決して広くはないコンコルド機内に、よく和室を作ったものだと、あらためて思う)。
ファーストクラスには、他に制服を着た男が二人いた。
そうか、こいつらが、機長と副操縦士なんだな、と彼らを見たが、二人とも顔を真っ赤にしていた。
フランス人CAのいう通り、二人ともワインを飲み、酔っ払っていたのだ。
「カトリーヌ・ドヌーブは良かった。彼女の『マノン』は最高だった。シューサク・エンドの『ちんムク』よりも良かった」
と、ヘベレケの機長が声をかけてきたが、無視をした。
そして、彼らの前の席には、妙に体のデカイ男が、こちらは顎を前にツンと突き出し、頬に微笑を浮かべ、大人しくプランデーを舐めていた。
「そうか、『彼』が、俺たちを救出してくれたのだな」
そう直感した。
(続く)
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