拉致されたものの救出され、コンコルドに乗って帰国の機上でのことであった。
ビエール・トンミー氏は、『彼女』を和室に連れ込み、『いよいよ』という時、機体が大きく傾いた。
誰か分らぬ者がコンコルドを操縦しているようで、フランス人CAに
「どうにかして下さい、トンミー様!」
と懇願された、コックピットに向かう途中、ビエール・トンミー氏は、元カノや嫌いだった元上司に遭遇したが、CAに襟首を掴まれ、コックピット方向に引きづられていくと、そこには、ワインで酔っ払った機長と副操縦士がいた。
そして、その前の席には、妙に体のデカイ男が、こちらは顎を前にツンと突き出し、頬に微笑を浮かべ、大人しくプランデーを舐めていた。
「そうか、『彼』が、俺たちを救出してくれたのだな」
ビエール・トンミー氏は、そう直感したのであった。
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顎を前にツンと突き出し、頬に微笑を浮かべた妙に体のデカイ男の隣に座っていたのは、新間さんのように見えた。
プロレスファンではない自分が新間さん(新間寿さん)を知っているのは、我ながら意外であった。
新間さんが隣にいるということは、やはり『彼』はあの人だ。
「猪木さんですね?猪木さんだったんですね、ボクたちを救出してくれたのは?」
「まあ、なんちゅうか….」
猪木さんは、自分は猪木であると認めはしなかったが、照れて、顎を撫でた。
1990年、猪木さんは、フセインのイラクから人質を救出(解放)したのだ。
そして、今度もまた、救出をしてくれたのであろう…….
しかし、どこからなのだろう?
そうだ、俺は一体、どこに拉致されていたのだ?
どうして、以前勤めていた会社の連中と一緒なのだ?....再び、その疑問が脳裏に浮かんできた。
と、
「そんなことは今はどうでもいいのです!」
フランス人CAが、また俺の襟首をつかみ、キツイ言葉を投げてきた(勿論、フランス語だ)。
彼女は、『そんなことは』と、何故、俺の頭の中の思いを読めたのか?
「この機の操縦が今、どうなっているのか、お分かりでしょ。どうにかして下さい、トンミー様!」
不思議なことが余りに多いことに、俺は自分の置かれた状況に根本的な疑問を持ち始めていたが、俺の襟首を掴んだままのフランス人CAは、俺の体を放り投げるようにコックピットの扉にぶつけた。
「いてっ!」
しかし、それ以上痛がっていると、フランス人CAは今度は、俺の尻を蹴飛ばしそうであったので、俺は、ドアノブに手をかけ、回した。
鍵はかかっておらず、扉は簡単に開いた。
扉の開いたコックピットからは、陽気な音楽が流れ出てきた。
そして、そこには、2人のインド人が、手を振り、腰を振り、踊っていた。
なんだ、なんなんだ!?
2席の操縦席の間に、BDプレイヤーが置かれ、インド映画が映されていた。
『Baahubali2:The Conclusion』だ。
今年(2017年)の4月28日から、インドを含め、全世界で公開されたばかりの映画だ。
「公開されたばかりなのに、もうBDになっているのか?」
と思った瞬間、俺は、軽くだが尻を蹴られた。
「そんなことは今はどうでもいいのです!」
また、フランス人CAだ。
彼女は、本当にどうやって、俺の頭の中の思いを読んでいるのだ?
しかし、それ以上に疑問を持つことを止め、俺はインド人2人に、強い声をかけた。
「何をやっている!!!」
俺の声に驚いた2人のインド人は、踊りを止め、こちらを見た。
「み、見りゃ、分かるだろ。踊っているのさ」
1人が巫山戯た回答を返してきた。ヒンディー語でだ。
俺は、ヒンディー語を理解していた。いやいや、理解していたどころか、インド人2人に放った『何をやっている!!!』という言葉も、ヒンディー語だったのだ。
俺は、ヒンディー語を習ったことはない。外国語を学ぶずとも、ピロー・トーキングで会得できるとも聞くが、インド人の彼女を持ったこともない。
何故、俺はヒンディー語を使えるのか、ということは深く考えることはせず(そうしないと、また、フランス人CAに尻を蹴られてしまう)、俺は
「勝手に操縦していただろうが!」
と、またヒンディー語で怒鳴った。
インド人たちは、怯えながらも、頭の上に『?』をいっぱい浮かべ、答えた。
「なんだって?操縦?俺たち、飛行機の操縦なんかできないぜ。二人とも、クルマの運転免許だって持ってないんだ。エヴァンジェリストさんと同じさ」
はあ?『エヴァンジェリストさん』?奴らは、エヴァの知合いか?
ますます分らなくなってきた。俺はどういう状況に置かれているのだ?
だが、フランス人CAが怖い。俺は、またまたヒンディー語で怒鳴った。
「嘘をつくんじゃない!ハイジャックしたんだろ!」
「嘘なんかじゃあ、ありませんぜ、旦那。オレたちは、『Baahubali2:The Conclusion』を見ながら踊っていただけなんでさ」
少し江戸弁混じりのヒンディー語だ。
「騙されないぞ!何故、コックピットで踊る必要があるんだ!」
「だって、コックピットが広いからさ」
「操縦士たちがいるのに、広いわけがあるか!」
「操縦士さんたちはいませんでしたぜ。あの人たち、客席に行って、食事を摂り、ワインを飲んでるでしょ」
それはその通りだ。しかし、機体は左に右に大きく傾いだのだ。
「お前たちが下手な運転、いや操縦をしたからだろ、大きく揺れたのは」
「ああ、ちょっと派手に踊り過ぎた時だな、それは」
「はあ?!此の期に及んでまだ巫山戯るか!喝!」
と、いきり立った俺の肩を優しくポンポンと叩く者がいた。
誰だ?
(続く)
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