2017年5月20日土曜日

【貫禄の幼女】百合子を超えろ、恵美子を超えろ、いや、角栄になれ!(後編)




新宿駅から、泣き喚く2歳くらいの幼女を抱えたお母さんが電車に乗り込んで来た。

「ぎゃあ~、どぅばぁ~、ずぅばぁ~」

なかなかに猛烈な喚き声だ。

「どうぞ」

紳士なエヴァンジェリスト氏は、お母さんに席を譲るべく、声を掛けた。お母さんは素直にその申し出を受けた。

しかし、幼女は両手両足をバタつかせ、胴をクネらせるだけでなく、ついには、両手で電車の床を叩き、

「ギギ、ぎゃあ~あ~」

と喚き声の音量を最高レベルにまで上げた。

お母さんは、構わず幼女の腰を手を回し、抱き起こし、幼女の手を座席に付かせるところで持っていくと、ショルダーバッグからソフト煎餅を取り出し、

「これ、食べよ」

と幼女に云ったが、幼女には聞こえず、

「ギギ、ぎゃあ~あ~」

と幼女は再び、電車の床にうつ伏したのであった。




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電車の床にうつ伏した幼女は、今度は、そのうつ伏した姿勢のまま、『匍匐前進』を始めた。

「駄目よっ」

お母さんは慌てて、幼女を引きずり戻し、起こそうとするが、幼女は暴馬のように体を上下させ、また床にうつ伏した。

そしてまた、『匍匐前進』を始めた。

「駄目だってばあ」

お母さんの困惑をよそに、乗客たちは失笑した。

電車の床で『匍匐前進』する幼女の姿は、何だか微笑ましいのだ。

エヴァンジェリスト氏も、程なく自分の前に現れるであろう孫の姿を見ているようで、頬を緩めていた。

しかし、お母さんにとっては冗談ではない。

それまで以上の力を出し、幼女を抱き起こし、何とか座席に座らせた。

しかし、幼女はまだ

「ギギ、ぎゃあ~あ~」

と喚く。

「これ食べよ、シゲ子」

お母さんはまたソフト煎餅を幼女に差し出した。

幼女は今度は、ソフト煎餅に気付き、途端に喚き声を上げるのを止めた。

お母さんは封を開け、幼女にソフト煎餅を手渡した。

座席に胡座をかいた幼女はソフト煎餅を掴むと、ひと齧りし、一言発した。

「うまい!」




な、な、なんだ、この子は!

エヴァンジェリスト氏の両目は、驚愕に見開いた。

しばらくモグモグし、またひと齧りすると、幼女はまた、

「うまい!」

と明瞭な発音で言葉を発した。

この子は、将来、小池百合子を超える。

エヴァンジェリスト氏は確信した。

どこの老獪な政治家かと思わせる貫禄だ。

いやいや、小池百合子どころではないぞ。

この子は、上沼恵美子をも超える。

そのままその子の様子をみていたかったが、そうもいかなかった。

電車は、四ツ谷に着いた。エヴァンジェリスト氏はそこで、丸の内線に乗り換えなくてはならなかった。

丸の内線への乗り換え口に向いながら、

「うまい!」

と云った幼女の憮然と悠然とか入り混じった表情から、思った。

小池百合子の比ではない。上沼恵美子も怖れることはない。

角栄だ!

君よ、角栄になれ!

幼女が、

「うーん、まあなんちゅうか、うまい!」

という様子がエヴァンジェリスト氏の脳裏に浮かんで来た。



(おしまい)





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