その子は、2歳くらいであったろうか。
エヴァンジェリスト氏が乗った電車が新宿駅に着くと、泣き喚く幼女を抱えたお母さんが乗ってきた。
「ぎゃあ~、どぅばぁ~、ずぅばぁ~」
なかなかに猛烈な喚き声だ。
声だけではなく、両手両足をバタつかせ、胴をクネらせ、お母さんは幼女を抱えていられなくなった。
幸いお昼過ぎで、電車は、さほど混み合ってはいない。
電車は新宿駅を出た。
「どうぞ」
紳士なエヴァンジェリスト氏は、お母さんに席を譲るべく、声を掛けた。お母さんは素直にその申し出を受けた。
しかし、幼女はそんなこたあ、知ったこっちゃない。
何が気に食わないのかは分からないが、暴れっぷりはいや増し、ついに幼女は、電車の床にうつ伏した。
間もなく愚娘に子どもが生まれるエヴァンジェリスト氏は、その様子を微笑ましく見ていた。
席は譲ったが、お母さんも幼女もその席には座れる状態ではない。
右肩から下げたショルダーバッグがずり落ちるのを気にしながら、お母さんは、幼女を抱き起こそうとする。
「ねえねえ、座ろ、シゲ子ちゃん」
しかし、シゲこと呼ばれた幼女は両手両足をバタつかせ、胴をクネらせるだけでなく、ついには、両手で電車の床を叩き、
「ギギ、ぎゃあ~あ~」
と喚き声の音量を最高レベルにまで上げた。
お母さんは、構わず幼女の腰を手を回し、抱き起こし、幼女の手を座席に付かせるところで持っていった。
そして、ショルダーバッグからソフト煎餅を取り出し、
「これ、食べよ」
と幼女に云ったが、幼女には聞こえず、
「ギギ、ぎゃあ~あ~」
と幼女は再び、電車の床にうつ伏した。
(続く)
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