2018年5月3日木曜日

【曲がったことが嫌いな男】石原プロに入らない?入れない?[その77]



「エヴァさん、曲がれるよね?」

列のすぐ前にいた女性が振り向いて云ったその言葉を聞いた時、エヴァンジェリスト氏は、不祥事を起こした『TOKIO』の山口達也メンバーに対して、『TOKIO』のリーダーである城島茂が厳しい言葉を吐く一方で、山口達也メンバーについて、『TOKIO』復帰が叶わなかったら、坂田利夫、江木俊夫、黒沢年雄、田母神俊雄からなる『TOSHIO』入りすればいいという『ひん曲がったこと』を云う輩が出てくることを、まだ知らなかった。


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「うっ!」

という声を発したきり、エヴァンジェリスト氏はそれ以上、声を出すことができなくなった。

1980年12月、上池袋の『3.75畳』の下宿で、小さな炬燵に足を入れ修士論文『François MAURIAC論』書いていたエヴァンジェリスト氏は、モーリアックは、精神的自叙伝とも云われる『続・内面の記録』(Nouveaux mémoires intérieurs )を手にするべく、炬燵に足を入れたまま、体を180度回そうとしたのであった。

エヴァンジェリスト氏は、François MAURIAC』(フランソワ・モーリアック)の最高傑作『蝮の絡み合い』(『Le Nœud de Vipères』)を境にフランソワ・モーリアックの小説は変わる、と捉えていた。

『罪人の復権』とでも呼ぶべき思想を、フランソワ・モーリアックは、『蝮の絡み合い』で初めて示した、とエヴァンジェリスト氏は考える。

その『罪人の復権』についての記述があったはずと思い、『続・内面の記録』を確認しようとしたのだ。

修士論文を書くにあたり、エヴァンジェリスト氏は、参考文献を机がわりの炬燵の上に置き、そこに置ききれないものは、座布団代わりとしていた万年床の布団の上に、自らの体を取り巻くように置いてあり、『続・内面の記録)』は、座った体の真後ろに置いてあった。

エヴァンジェリスト氏は、炬燵に足を入れたまま、体を180度回そうとしたが…….

「うっ!」

という声を発したきり、エヴァンジェリスト氏はそれ以上、声を出すことができなくなった。

体を左100度程、回したまま、そのままの姿勢で万年床に倒れ、

「(うっ!)」

と、苦悶の声も、声にならなかった。

『曲がった』体勢のまま、斜め上に天井を見た。

「(死ぬう…….このまま、この体勢のままでボクは死ぬのか……?)」

上池袋の『3.75畳』の下宿に来る者はいない。

「(動けない……ううーっ!)」






天井のシミが見える。いや、天井のシミしか見えない。

「(………)」

まだ声が出ない。

天井のシミ、節が、人間の顔に見えるとも云うが、何にも見えない。

それより何より、

「(痛い…….……ううーっ!)」

しかし、

「(死ぬう…………んん?)」

いや、死にそう、ではないようだ。猛烈な痛みがあったが、痛いからといって死ぬものではない。

少しずつ冷静さを取り戻してきた。

「(だが、動けない…….)」



『3.75畳』に『曲がって』倒れたままだ。

「(このままでは『生き神クマリ』のように、この部屋の中に居続けることになる…….)」

しかし、目だけは動いた。視線が天井から外れ、目の前の万年床に移った。

そこには、『Nouveaux mémoires intérieurs』(続・内面の記録)があった。

「(そうだ…….『罪人の復権』であった)」

ようやく自身が置かれた状況を理解できてきた。


(続く)




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