「エヴァさん、曲がれるよね?」
列のすぐ前にいた女性が振り向いて云ったその言葉を聞いた時、エヴァンジェリスト氏は、フラッシュ・メモリーの発明である舛岡富士雄さんも『曲がったことが嫌いな男』であるが故に『Unsung HERO』(評価されない英雄)と称されることになるが、先輩『ミスター・シューベルト』もまさに『Unsung HERO』だ思うようになることを、まだ知らなかった。
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「好きな子も一緒なのかい?まあ、楽しんでらっしゃい」
薬局のおばさんのその言葉に、エヴァンジェリスト氏の顔の紅潮は増し、体のある部分は、『自分は曲がったことが嫌いです』と云わんばかりの硬直を示した。
1982年の冬、エヴァンジェリスト氏は、上池袋の交差点近くにある薬局前、公衆電話ボックス横に、茶色のカジュアルなコートを着て立っていた。
エヴァンジェリスト氏が、会社の同期でスキーに行くと聞き、薬局のおばさんは、冷やかしたのだ。
「ふふ」
謎の含み笑いを残し、薬局のおばさんは、薬局に戻って行った。
「プ、プー!」
1台のセダンが、エヴァンジェリスト氏の前に止った。
セダンの運転席にいたのは、オン・ゾーシ氏であった。そして、助手席に座っていたのは、ニキ・ウエ子さんであった。
「エヴァさん、お待たせ」
エヴァンジェリスト氏は、オン・ゾーシ氏の依頼で、オン・ゾーシ氏がニキ・ウエ子さんと行くクルマに同乗することになっていた。
「バタン!」
後部席のドアを開け、エヴァンジェリスト氏はセダンに乗り込んだ。
スキー場には、夜行バスで行くことになったが、オン・ゾーシ氏は、ニキ・ウエ子さんとクルマで行きたかった。二人は、付き合っていたが、付き合っていることは、秘密にしていたので、カモフラージュにエヴァンジェリスト氏を使うことにしたのである。
セダンは、明治通りを走り始めた。
「はい、アーン」
セダンを運転していたオン・ゾーシ氏が、助手席のニキ・ウエ子さんの方を向き、口を開けた。
ニキ・ウエ子さんは、オン・ゾーシ氏の口に何かをポンと投げ入れた。
「ふふ…っ」
甘い香りが、車内に漂った(ような気がした)。
「エヴァさんもどう?キャンディ」
ニキ・ウエ子さんが、エヴァンジェリスト氏の方に振り向いて声を掛けた。
「は…っ….」
不意をつかれたエヴァンジェリスト氏は、両手で股間を抑えた。
(続く)
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