2018年5月6日日曜日

【曲がったことが嫌いな男】石原プロに入らない?入れない?[その80]



「エヴァさん、曲がれるよね?」

列のすぐ前にいた女性が振り向いて云ったその言葉を聞いた時、エヴァンジェリスト氏は、好きになった女性との結婚を親に反対されながらも『真っ直ぐに』愛を貫き、結婚したものの、その女性(つまり、妻)から、後に『私の人生を返せ』と言われるようになったが、『真っ直ぐな』自分は、それでも妻を愛し続けることをまだ知らなかった。


-------------------------------


エヴァンジェリスト氏は、モーリアックは、精神的自叙伝とも云われる『続・内面の記録』(Nouveaux mémoires intérieurs )を手にするべく、炬燵に足を入れたまま、体を180度回そうとし無理をした為、

「うっ!」

という声を発し、体を左100度程、回したまま、そのままの姿勢で万年床に倒れた。

「(うっ!)」

と、苦悶の声も、声にならなくなった。

「(失敗だ……失敗してしまった…..…ううーっ!.......『曲がったことが嫌い』なボクとしたことが!)」

1980年12月、上池袋の『3.75畳』の下宿で、小さな炬燵に足を入れ、万年床を座布団替りに、修士論文『François MAURIAC論』書いていたのであった。

『続・内面の記録』は、エヴァンジェリスト氏の体のほぼ真後ろにあった。

「(死ぬう…….このまま、この体勢のままでボクは死ぬのか……?)」

いや、死にそう、ではないようだ。猛烈な痛みがあったが、痛いからといって死ぬものではない。

「(…ううーっ!)」

唸りながらも身を起こし、更に、体を『やや左に傾けたまま』立ち上がった。まだまだ猛烈に痛む。しかし、このままではいけない。

「(….む………)」

しかし、姿勢への不満の前に痛みをなんとかする必要があり、エヴァンジェリスト氏は、『やや左に傾いた姿勢のまま』部屋を出て、下宿の階段を気をつけて降り、明治通り沿いの歩道に出た。

「(見るな!)」

すれ違う人に睨みをきかせた。こんな『曲がった姿勢』を他人に見られるのが嫌であった。

そして、5m程行ったところにある店の扉を開けた。

「いらっしゃい」

店の女性(おばさん)が声を掛けた。

「あら、どうしたの?」

苦痛に顔を『歪め』、姿勢も『歪めた』エヴァンジェリスト氏を見て、店の女性(おばさん)は、店のカウンターから出てきた。

「(…….)……痛いんです…..」






そこは、薬局であった。以前、風邪薬を買いに来たことがあった。

「痛いの?.....背中?」

店の女性(おばさん)は、エヴァンジェリスト氏の背中に回り込むようにして訊いた。

「(…….)」

声が出ない。右手で肩を叩き、次いで、その手を脇の下から背中に回すようにした。

「ああ、首、肩、背中ね」

辛うじて頷く。

「じゃあ、湿布ね。それと痛み止めだわね」

そう云うと、店の女性(おばさん)は、カウンターの向こうに戻った。

「(…….)」

声が出ず、『歪んだ』姿勢のまま、視線がカウンターになっているガラス・ケースに行った。

「(…….?)」

ケースの端に、ひっそりとオシャレな小箱が重ねてあった。

「(…….チョコレート?)」



いや、そこは薬局であった。

「(…….!)」


(続く)



0 件のコメント:

コメントを投稿