2018年5月9日水曜日

【曲がったことが嫌いな男】石原プロに入らない?入れない?[その83]



「エヴァさん、曲がれるよね?」

列のすぐ前にいた女性が振り向いて云ったその言葉を聞いた時、エヴァンジェリスト氏は、後に、フラッシュ・メモリーを発明した舛岡富士雄さんについて、ただ技術的に性能の向上を追うのではなく、商品が使われる為にあるべきものを求める姿は(技術的には高度ではなくともその方が実用に即したものであれば、そちらを選ぶという姿勢は)、やはり、まるで『ミスター・シューベルト』(変人と云えば変人だが、エヴァンジェリスト氏の敬愛する先輩)だ、と思うようになることをまだ知らなかった。


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上池袋の『3.75畳』の下宿で、、修士論文『François MAURIAC論』書いていた時、無理な体勢を取ったばかりに、体を痛めたエヴァンジェリスト氏は、『やや左に傾いた姿勢のまま』部屋を出て、近所の薬局まで行った。

1980年12月のことであった。

「ああ、首、肩、背中ね。じゃあ、湿布ね。それと痛み止めだわね」

そう云うと、店(薬局)の女性(おばさん)は、カウンターの向こうに戻った。

声が出ず、『歪んだ』姿勢のまま、エヴァンジェリスト氏の視線は、カウンターになっているガラス・ケースに行った。ケースの端に、ひっそりとオシャレな小箱が重ねてあった。

「(…….チョコレート?)」

いや、そこは薬局であった。薬局にチョコレートがある訳がなかった。

「(…….!)」

それが何であるか、判り、エヴァンジェリスト氏の体そのものは『歪んで』いたが、ある部分が『真っ直ぐ』となった。顔も紅潮していた。

「おや、熱もあるのかい?」
「(ち、ち、違います…….)」

と、声が出ないエヴァンジェリスト氏は、自らの顔の前で右手を左右に振った。

「これを貼るといいさ。効くやつだからね」

と、云いながら、カウンターから出て来た店の女性(おばさん)は、エヴァンジェリスト氏の前で、手に持った湿布の箱に視線を落とした。

「(マズイ…….)」

エヴァンジェリスト氏は、伸びるジーパンを穿いていた。

「(気付かないで…….)」

ジーパンは、体に起きた『異変』をそのまま見せていたのだ。

「おや、ま!」

と、店の女性(おばさん)は、口を丸く開け、エヴァンジェリスト氏を見た。






「(いや、反応したのは、おばさんに、ではなくって…..)」

勘違いされては、困るのだ。



「やっぱり、熱があるんじゃないのかい?」
「(…….??)」
「だって、顔が赤いんだもの」
「(はっ?!…….)」

ホッとすると、首から背中の痛みを思い出した。

「うっ!」

久々に声を発した。

「あらあら、早く湿布貼りねさい。痛み止めも出しとくからね」

と、店の女性(おばさん)は云うと、薬代を教え、エヴァンジェリスト氏は、『歪んだ』姿勢のまま、ポケットから何とかお金を出し、支払いを済ませた。

「…….有難う….うっ!….ございます。…….」

と、声を振り絞ったエヴァンジェリスト氏は、店の出口に向い始めた。姿勢は、左に『傾いたまま』であった。

「ちょっと!」

背後から声が掛けられた。


(続く)



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