2018年5月25日金曜日

【曲がったことが嫌いな男】石原プロに入らない?入れない?[その99]



「エヴァさん、曲がれるよね?」

列のすぐ前にいた女性が振り向いて云ったその言葉を聞いた時、エヴァンジェリスト氏は、「我が家には主婦がいない」と云う夫(津川雅彦)に対して、「私も家事のできる奧さんが欲しい」と云ったという朝丘雪路もある意味で『真っ直ぐな人』であったのだと思うようになることをまだ知らなかった。


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『キュ、キュ、キューッ!』

「(うっ…..)」

セダンの前方席の2人(オン・ゾーシ氏とその恋人のニキ・ウエ子さん)の痴話を耳にしながら、うたた寝し、いつの間にか後部座席で横になっていたエヴァンジェリスト氏は、シートの背に体を打ち付けた。

1982年の冬、同期の皆でスキーに行くことなり、エヴァンジェリスト氏は、同期の1人であるオン・ゾーシ氏の依頼で、オン・ゾーシ氏のクルマ(セダン)に同乗していた。

しかし、セダンは、やや急なその坂道を登り切れず、スリップして下にずり落ちたようであった。

坂道は、凍結していたようなのだ。

「ごめんね、エヴァさん」

オン・ゾーシ氏が、エヴァンジェリスト氏に詫びた。

「スリップしてね。この坂は無理かなあ…..」
「ああ…..」
「軽井沢のここを通った方が早いんだけどねえ」
「軽井沢……」

と、独り言ちたエヴァンジェリスト氏は、そのまま口を開けていた






開けたままの口の中に、エヴァンジェリスト氏は、何か苦い物を感じた。

「(軽井沢かあ……)」
「別の道、行くね」

というオン・ゾーシ氏の言葉も聞こえてはいたが、エヴァンジェリスト氏の意識はもう別のところに行っていた。

「(『学生四田文学』の合宿は、軽井沢だった…..)」

OK牧場大学文学部1年の時、エヴァンジェリスト氏は、所属した大学公認サークルの『四田文学学生会』の夏合宿で、軽井沢に来たことがあった。

「(場違いだった….)」

『四田文学』なる雑誌がある。OK牧場大学文学部を中心として刊行されて来た文芸雑誌である。

そして、『四田文学学生会』は、『学生四田文学』なる雑誌(同人誌)を刊行している。

『学生四田文学』は『学生四田文学』であり、勿論、『四田文学』そのもではない。

しかし、OK牧場大学文学部に入ったからには、『四田文学』に(正しくは、『四田文学学生会』に)入らなければならない、という一種の強迫観念から、エヴァンジェリスト氏は、入学して間もなく、田吉にあるOK牧場大学の教養課程のキャンパスの校舎の一つにある『四田文学学生会』の部室の扉を開けた。

薄暗い部室の中には、髪をむさ苦しく長くした、年齢不詳の学生らしき男がおり、愛想なく、エヴァンジェリスト氏の入会手続をした。

「(ああ、これが文学者なのか….)」



『四田文学学生会』で何をするか分からぬまま入会したエヴァンジェリスト氏は、その後、部室には1、2度しか足を踏み入れなかった。

1年生は授業も多く、結構忙しくもあった。それに、授業を受けている方が楽しかった。

授業が面白かった訳ではない。当時も今も、エヴァンジェリスト氏は、勉強なるものが大嫌いだ。

しかし、OK牧場大学文学には、女性が多かった。広島から出て来たウブな青年(というか少年に近い男)には、都会の女性は眩しく、また、馨しかった。

講師の授業を一応は聴きながら、目と鼻は同期の女性たちに向い、『四田文学学生会』の部室に向かう気持ちは湧かなかった。

授業中、常に股間には『異変』が生じていたのだ。


(続く)



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