2018年5月11日金曜日

【曲がったことが嫌いな男】石原プロに入らない?入れない?[その85]



「エヴァさん、曲がれるよね?」

列のすぐ前にいた女性が振り向いて云ったその言葉を聞いた時、エヴァンジェリスト氏は、後に、フラッシュ・メモリーを発明した舛岡富士雄さんの部下で、舛岡富士雄さんとは『仲が悪かった』白田理一郎についても、実は、やはり『曲がったことが嫌いな男』(捉えようによっては『変人』)であったのだろうと思うようになることをまだ知らなかった。


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「ああ、首、肩、背中ね。じゃあ、湿布ね。それと痛み止めだわね」

そう云うと、店(薬局)の女性(おばさん)は、カウンターの向こうに戻った。

1980年12月、上池袋の『3.75畳』の下宿で、、修士論文『François MAURIAC論』の執筆中に体を痛めたエヴァンジェリスト氏は、近所の薬局に行ったのだ。

「(…….チョコレート?)」

声が出ず、『歪んだ』姿勢のまま、エヴァンジェリスト氏は、カウンターになっているガラス・ケースの端に、ひっそりとオシャレな小箱が重ねてあった。

「(…….!)」

チョコレートの箱のように見えたものが、実は何であるのか判り、エヴァンジェリスト氏の体そのものは『歪んで』いたが、ある部分が『真っ直ぐ』となった。顔も紅潮した。

「(マズイ…….)」

エヴァンジェリスト氏は、伸びるジーパンを穿いていた。ジーパンは、体に起きた『異変』をそのまま見せていたのだ。

「おや、ま!」

と、店の女性(おばさん)は、口を丸く開け、エヴァンジェリスト氏を見た。

「(いや、反応したのは、おばさんに、ではなくって…..)」

と、動揺したが……

「やっぱり、熱があるんじゃないのかい?だって、顔が赤いんだもの」
「(はっ?!…….)」
「あらあら、早く湿布貼りなさい。痛み止めも出しとくからね」

そして、エヴァンジェリスト氏は、『歪んだ』姿勢のまま、ポケットから何とかお金を出し、支払いを済ませ、店の出口に向い始めた。

「ちょっと!」

背後から声が掛けられた。

「脱ぎなさい」

背後の声は、思いがけない言葉を発した。店の女性(おばさん)が、愛おしげにエヴァンジェリスト氏を見ていた。

「(バレたのか?.....)」
「無理でしょ?」
「へ?」
「自分で背中に湿布貼れないでしょ?」
「ああ…」
「ウエ、脱ぎなさい。湿布、貼ってあげるから」






「す、す、すみません….」

バレたのではなかった。下を脱ぐとマズイが、ウエなら構わない。

「じゃ、ここに座って」

店の女性(おばさん)は、円い椅子をエヴァンジェリスト氏の前においた。

「うっ!」

『ウエなら構わない』ことはなかったのだ。セーターを脱ごうとしたところ、猛烈な痛みが首、肩、背中を走った。



「おや、肌が白いねえ。運動してないでしょ?」

なんとかセーターを脱いだエヴァンジェリスト氏の背中を見て、店の女性(おばさん)は、息子に対するように云った。

「……は….」
「どうして痛めたのよ?」
「…..論文です」
「ロンブン?」
「あ、修士論文を書いてたんです」
「へえええ、アナタ、偉いのね」
「いえ….うっ!」

店の女性(おばさん)が、湿布を貼り、その湿布の上をポンと叩いたのだ。

「(おお…….!!)」


(続く)




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