2018年5月8日火曜日

【曲がったことが嫌いな男】石原プロに入らない?入れない?[その82]



「エヴァさん、曲がれるよね?」

列のすぐ前にいた女性が振り向いて云ったその言葉を聞いた時、エヴァンジェリスト氏は、後に、フラッシュ・メモリーを発明した舛岡富士雄さんについて、その『曲がったことが嫌いな男』ぶりは(他の人とは違う様は)、まるで『ミスター・シューベルト』だ、と思うようになることをまだ知らなかった。


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1980年12月、上池袋の『3.75畳』の下宿で、エヴァンジェリスト氏は、

「うっ!」

という声を発し、体を左100度程、回したまま、そのままの姿勢で万年床に倒れた。

小さな炬燵に足を入れ、万年床を座布団替りに、修士論文『François MAURIAC論』書いていた時、無理な体勢を取ったばかりに、体を痛めたのだ。

「(死ぬう…….このまま、この体勢のままでボクは死ぬのか……?)」

とは思ったが、無論、死ぬことはなく、少し時間を経て、『やや左に傾いた姿勢のまま』部屋を出て、近所の薬局まで行った。

「あら、どうしたの?」

と、店(薬局)の女性(おばさん)が、店のカウンターから出てきた。

「(…….)……痛いんです…..」

声が出ない。右手で肩を叩き、次いで、その手を脇の下から背中に回すようにした。

「ああ、首、肩、背中ね。じゃあ、湿布ね。それと痛み止めだわね」

そう云うと、店の女性(おばさん)は、カウンターの向こうに戻った。

声が出ず、『歪んだ』姿勢のまま、エヴァンジェリスト氏の視線は、カウンターになっているガラス・ケースに行った。ケースの端に、ひっそりとオシャレな小箱が重ねてあった。

「(…….チョコレート?)」

いや、そこは薬局であった。薬局にチョコレートがある訳がなかった。

「(…….!)」

それが何であるか、判った。

「(おお…….!!)」

体そのものは『歪んで』いたが、ある部分が『真っ直ぐ』となった。

「おや、熱もあるのかい?」

店の女性(おばさん)が、カウンター越しに声を掛けてきた。

「顔が赤いわよ」

そう云われ、若きエヴァンジェリスト氏の顔は、更に紅潮した。






「(ち、ち、違います…….)」

と、声が出ないエヴァンジェリスト氏は、自らの顔の前で右手を左右に振った。

「おや、そうかい」

自ら否定の仕草はしたものの、何が『違う』のだろう、と思った。

「これを貼るといいさ」

店の女性(おばさん)が、カウンターから出てきた。手には、湿布の箱を持っていた。

「これ、効くやつだからね」

と、店の女性(おばさん)は、エヴァンジェリスト氏の前で、手に持った湿布の箱に視線を落とした。

「(マズイ…….)」

エヴァンジェリスト氏は、伸びるジーパンを穿いていた。伸びるジーパンは、ジーパンだから丈夫で、でもストレッチが入っているから、普通のジーパンのように穿いていてキツくはない。

「(気付かないで…….)」



ジーパンは、体に起きた『異変』をそのまま見せていたのだ。

「おや、ま!」

と、店の女性(おばさん)は、口を丸く開け、エヴァンジェリスト氏を見た。


(続く)


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