2018年5月4日金曜日

【曲がったことが嫌いな男】石原プロに入らない?入れない?[その78]



「エヴァさん、曲がれるよね?」

列のすぐ前にいた女性が振り向いて云ったその言葉を聞いた時、エヴァンジェリスト氏は、好きになった女性との結婚を親に反対されながらも『真っ直ぐに』愛を貫き、結婚することになることをまだ知らなかった。


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1980年12月、上池袋の『3.75畳』の下宿で、小さな炬燵に足を入れ修士論文『François MAURIAC論』書いていたエヴァンジェリスト氏は、モーリアックの精神的自叙伝とも云われる『続・内面の記録』(Nouveaux mémoires intérieurs )を手にするべく、炬燵に足を入れたまま、体を180度回そうとした。

修士論文を書くにあたり、エヴァンジェリスト氏は、参考文献を机がわりの炬燵の上に置き、そこに置ききれないものは、座布団代わりとしていた万年床の布団の上に、自らの体を取り巻くように置いてあり、『続・内面の記録)』は、座った体の真後ろに置いてあったのだ。

「うっ!」

という声を発したきり、エヴァンジェリスト氏はそれ以上、声を出すことができなくなった。

体を左100度程、回したまま、そのままの姿勢で万年床に倒れ、

「(うっ!)」

と、苦悶の声も、声にならなかった。

「(死ぬう…….このまま、この体勢のままでボクは死ぬのか……?)」

『曲がった』体勢のまま、斜め上に天井を見る。

「(………)」

まだ声が出ない。

「(痛い…….……ううーっ!)」

しかし、

「(死ぬう…………んん?)」

いや、死にそう、ではないようだ。猛烈な痛みがあったが、痛いからといって死ぬものではない、と少しずつ冷静さを取り戻してきたが、『3.75畳』に『曲がって』倒れたままだ。

「(このままでは『生き神クマリ』のように、この部屋の中に居続けることになる…….)」

しかし、目だけは動いた。視線が天井から外れ、目の前の万年床に移った。

そこには、『Nouveaux mémoires intérieurs』(続・内面の記録)があった。

「(そうだ…….『罪人の復権』であった)」

ようやく自身が置かれた状況を理解できてきた。






「(『罪人の復権』の前に、ボク自身が『復活』しないといけない)」

痛みが少し、少しだけだが和らいできた。

「(失敗だ……失敗してしまった…..)」

左肘を布団についた。

「(…ううーっ!.......『曲がったことが嫌い』なボクとしたことが!)」

少し『杉下右京』的な云い方であったが、エヴァンジェリスト氏はその時、まだ『杉下右京』を知っている訳でも、ましてや、『杉下右京』の定年退職後、自分が『袖下左京(そでのした・さきょう)』として『特命係』になると噂されるようになることを知りはしなかった。




「(迂闊だった….)」

『曲がったことが嫌い』な自分が、体を思い切り『曲げ』、ほぼ真後ろにあった『Nouveaux mémoires intérieurs』(続・内面の記録)を取ろうとしてしまったのだ。



「(…ううーっ!)」

唸りながらも身を起こし、更に、体を『やや左に傾けたまま』立ち上がった。

「(…ううーっ!)」

まだまだ猛烈に痛む。しかし、このままではいけない。


(続く)



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