「エヴァさん、曲がれるよね?」
列のすぐ前にいた女性が振り向いて云ったその言葉を聞いた時、エヴァンジェリスト氏は、好きになった女性との結婚を親に反対されながらも『真っ直ぐに』愛を貫き、結婚することになることを、まだ知らなかった。
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1980年12月、上池袋の『3.75畳』の下宿で、小さな炬燵に足を入れ修士論文『François MAURIAC論』書いていたエヴァンジェリスト氏は、モーリアックの精神的自叙伝とも云われる『続・内面の記録』(Nouveaux mémoires intérieurs )を手にするべく、炬燵に足を入れたまま、体を180度回そうとした。
修士論文を書くにあたり、エヴァンジェリスト氏は、参考文献を机がわりの炬燵の上に置き、そこに置ききれないものは、座布団代わりとしていた万年床の布団の上に、自らの体を取り巻くように置いてあり、『続・内面の記録)』は、座った体の真後ろに置いてあったのだ。
「うっ!」
という声を発したきり、エヴァンジェリスト氏はそれ以上、声を出すことができなくなった。
体を左100度程、回したまま、そのままの姿勢で万年床に倒れ、
「(うっ!)」
と、苦悶の声も、声にならなかった。
「(死ぬう…….このまま、この体勢のままでボクは死ぬのか……?)」
『曲がった』体勢のまま、斜め上に天井を見る。
「(………)」
まだ声が出ない。
「(痛い…….……ううーっ!)」
しかし、
「(死ぬう…………んん?)」
いや、死にそう、ではないようだ。猛烈な痛みがあったが、痛いからといって死ぬものではない、と少しずつ冷静さを取り戻してきたが、『『3.75畳』に『曲がって』倒れたままだ。
「(このままでは『生き神クマリ』のように、この部屋の中に居続けることになる…….)」
しかし、目だけは動いた。視線が天井から外れ、目の前の万年床に移った。
そこには、『Nouveaux mémoires intérieurs』(続・内面の記録)があった。
「(そうだ…….『罪人の復権』であった)」
ようやく自身が置かれた状況を理解できてきた。
「(『罪人の復権』の前に、ボク自身が『復活』しないといけない)」
痛みが少し、少しだけだが和らいできた。
「(失敗だ……失敗してしまった…..)」
左肘を布団についた。
「(…ううーっ!.......『曲がったことが嫌い』なボクとしたことが!)」
少し『杉下右京』的な云い方であったが、エヴァンジェリスト氏はその時、まだ『杉下右京』を知っている訳でも、ましてや、『杉下右京』の定年退職後、自分が『袖下左京(そでのした・さきょう)』として『特命係』になると噂されるようになることを知りはしなかった。
(参照:【愛棒】冠城亘はボクだったはずだ!)
「(迂闊だった….)」
『曲がったことが嫌い』な自分が、体を思い切り『曲げ』、ほぼ真後ろにあった『Nouveaux mémoires intérieurs』(続・内面の記録)を取ろうとしてしまったのだ。
「(…ううーっ!)」
唸りながらも身を起こし、更に、体を『やや左に傾けたまま』立ち上がった。
「(…ううーっ!)」
まだまだ猛烈に痛む。しかし、このままではいけない。
(続く)
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