「エヴァさん、曲がれるよね?」
列のすぐ前にいた女性が振り向いて云ったその言葉を聞いた時、エヴァンジェリスト氏は、20年、30年後の日本では、「ハリルのやるサッカーに全てを服従して選ばれていく、そのことのほうが僕は恥ずかしいと思っている」と発言する本田圭佑とは異なり、「会社に(上司に)服従していく」ことをしないと出世できなくなる為、自分も凄くは出世しないで定年を迎えることになることを、まだ知らなかった。
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「オン、お茶飲む?」
ニキ・ウエ子さんは、恋人のオン・ゾーシ氏のことを、2人だけの時は(その時は、エヴァンジェリスト氏もいたが、そこにいないに等しい状況であったのだろう)、『オン』と呼んでいるらしい。
「まだいいよ」
オン・ゾーシ氏は、エヴァンジェリスト氏が聞いたことのない甘い声で返した。
1982年の冬、エヴァンジェリスト氏は、同期の1人であるオン・ゾーシ氏の依頼で、オン・ゾーシ氏がニキ・ウエ子さんと、スキー場に向うクルマ(セダン)に同乗していた(1人、後部座席に座っていた)。
キャンディよりも甘い関係の2人の会話に馬鹿馬鹿しくなったエヴァンジェリスト氏は、『硬直した』体のソノ部分を鎮める為にも眠ることとし、目を閉じた……..
「だってええ….」
「….でもさあ…」
どこか遠くに2人の会話が聞こえる。
「あの時、オンったらあ….」
「ニキだって」
「ふふ」
体のソノ部分は、一向に鎮まりそうではなかった。
『キュ、キュ、キューッ!』
「(うっ…..)」
セダンの前方席の2人の痴話を耳にしながら、うたた寝し、いつの間にか後部座席で横になっていたエヴァンジェリスト氏は、シートの背に体を打ち付けた。
「やべえ」
「大丈夫?」
エヴァンジェリスト氏も目を覚ました。
「(生きている)」
「ごめんね、エヴァさん」
オン・ゾーシ氏が、エヴァンジェリスト氏に詫びた。
「スリップしてね。この坂は無理かなあ…..」
セダンは、坂道にあった。やや急なその坂道を登り切れず、スリップして下にずり落ちたようであった。
坂道は、凍結していたようなのだ。
「ああ…..」
「軽井沢のここを通った方が早いんだけどねえ」
「軽井沢……」
と、独り言ちたエヴァンジェリスト氏は、そのまま口を開けていた。
(続く)
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