2018年5月12日土曜日

【曲がったことが嫌いな男】石原プロに入らない?入れない?[その86]



「エヴァさん、曲がれるよね?」

列のすぐ前にいた女性が振り向いて云ったその言葉を聞いた時、エヴァンジェリスト氏は、後に、自分がMacintoshを知り、その使い易さを知ってからは、『真っ直ぐに』会社でも自宅でもMacしか使わなくなるようになることをまだ知らなかった。


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「脱ぎなさい」

背後の声は、思いがけない言葉を発した。店(薬局)の女性(おばさん)が、愛おしげにエヴァンジェリスト氏を見ていた。

1980年12月、上池袋の『3.75畳』の下宿で、、修士論文『François MAURIAC論』の執筆中に体を痛めたエヴァンジェリスト氏は、近所の薬局に行った。

「ああ、首、肩、背中を痛めたのね。じゃあ、湿布ね。それと痛み止めだわね」

と云って、店(薬局)の女性(おばさん)が、カウンターの向こうに薬を取りに行っている間、『歪んだ』姿勢のまま、エヴァンジェリスト氏は、カウンターになっているガラス・ケースの端に、ひっそりとオシャレな小箱を見つけた。

「(…….!)」

チョコレートの箱のように見えたものが、実は何であるのか判り、エヴァンジェリスト氏の体そのものは『歪んで』いたが、ある部分が『真っ直ぐ』となった。顔も紅潮した。

「(マズイ…….)」

エヴァンジェリスト氏は、伸びるジーパンを穿いていた。ジーパンは、体に起きた『異変』をそのまま見せていたのだ。しかし、

「あらあら、早く湿布貼りなさい。痛み止めも出しとくからね」

と、店の女性(おばさん)に気付かれることはなく、支払いを済ませ、店の出口に向い始めた。

「ちょっと!」

背後から声が掛けられた。

「脱ぎなさい」

背後の声は、思いがけない言葉を発した。店の女性(おばさん)が、愛おしげにエヴァンジェリスト氏を見ていた。

「(バレたのか?.....)」
「無理でしょ?自分で背中に湿布貼れないでしょ?ウエ、脱ぎなさい。湿布、貼ってあげるから」
「す、す、すみません….」

バレたのではなかった。下を脱ぐとマズイが、ウエなら構わない。

「おや、肌が白いねえ。運動してないでしょ?どうして痛めたのよ?」
「あ、修士論文を書いてたんです」
「へえええ、アナタ、偉いのね」
「いえ….うっ!」

店の女性(おばさん)が、湿布を貼り、その湿布の上をポンと叩いたのだ。

「(おお…….!!)」






背中をポンと叩かれ、体が前のめりになった時、ガラス・ケースの端にひっそりと置かれたチョコレートの箱のようなオシャレな小箱が、再び、目に入ったのだ。

「(マズイ…….)」

エヴァンジェリスト氏の体のある部分が再び、自分は『曲がったことは嫌いな男だ』と主張するかのように、硬く『真っ直ぐ』になったのだ。


「あら、どうしたの?大丈夫?」

『うっ!』と呻いたきり、沈黙したエヴァンジェリスト氏を心配した店の女性(おばさん)は、背中から回り込むようにエヴァンジェリスト氏の顔を覗き込んだ。

「いえ…..」

エヴァンジェリスト氏は、両手で股間を隠した。

「うっ!」

まだ、体の左側が痛む。

「湿布張り替える時、自分でできないようだったら、またウチに来なさい」

店の女性(おばさん)は、何も気付かないフリをして、ムスコのようなエヴァンジェリスト氏にそう声を掛けた。

………こうして、体を『曲げてしまう』という窮地に陥ったエヴァンジェリスト氏は、薬局の女性(おばさん)に湿布を貼ってもらい、その後に飲んだ鎮痛薬も効いたのか、再び、修士論文『François MAURIAC論』の執筆に取りかかることができるようになったのであった。


(続く)



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