2018年5月16日水曜日

【曲がったことが嫌いな男】石原プロに入らない?入れない?[その90]



「エヴァさん、曲がれるよね?」

列のすぐ前にいた女性が振り向いて云ったその言葉を聞いた時、エヴァンジェリスト氏は、自分のMac好きの影響を受けた息子も『真っ直ぐに』Mac好き(というかApple好き)になり、iPodだけではなく、iPadが発売開始された日も、当時勤めていた表参道の会社を抜け出し、原宿のSoftBankショップに行き、直ぐにiPadを購入するようになることをまだ知らなかった。


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男の視線は、王子信用金庫(巣鴨支店)の看板にいっていたが、男が見ていたのは、遠い故郷広島の翠町にある広島大学附属小学校であった。それも20年も前の広島大学附属小学校のある教室の中であった。

1982年の冬、上池袋の交差点近くにある薬局前、公衆電話ボックス横に、茶色のカジュアルなコートを着て立つ男は、幼き遠藤周作と同じ経験をしたことを思い出していたのだ。

大連にいた頃であったかと思うが、幼き遠藤周作は、母親に毎日水やりをしたら、 お花が咲く』と云われ、雨の日も傘をさしながら、花に水をやっていた、という。

「(ああ、ボクも同じだった….)」

それは、広島大学附属小学校の入学試験であった。

6歳であった男が、手を繋いだ母親に連れられ、教室の中の壁4面に配置された机を回ると、教員がいて、机の上に置かれた器具等を使い、受験者(子ども)に質問をするのだ。

6歳であった男が最初に、受けた質問(問題)は、天秤であった。

「さあ、どっちが重いかな?」

天秤は、向って右側に錘が置かれ、必然的に右側が下がっていた。

普段はシャイで知らない人にはまともに口もきけない男(6歳である)が、その時だけは何故か、元気に答えた。

「こっち!」






男(6歳である)が指差したのは、左側であった。

横で、母親がため息をついていたような気がするが、男(6歳である)は、口を開けてポカンとしていた。

男(6歳である)は、幼き遠藤周作同様、知恵が少々足らなかったようなのだ。

天秤の質問の後も、教室内の机を周り、次々と質問(問題)に答えていったが、男(6歳である)は他の質問を覚えていない。

教室内を周りながら、どこか天秤のことが気になっていたのだ。

天秤の質問への回答を間違えた、と思った訳ではなかったが、何故か気になり、20年経った『今』でも、明治通りを前に立ちながらも、男(27歳である)その時のことを思い出すのだ。

あの時、

「こっち(右)!」

と答えていれば、男の人生は変っていたかもしれない(「こっち(左)と答えた男は勿論、広島大学附属小学校に合格しなかった)。

有名進学校であった広島大学附属小学校に入り、そのまま広島大学附属中学校、高等学校へと進学していたら、OK牧場大学ではなく、東京大学にでも入っていたかもしれない(OK牧場大学もそれなりの有名大学であり、そこではむしろ、東京大学を『官立』と蔑んでいたが)。


あの時、

「こっち(右)!」

と答えていれば、目黒区の八雲の下宿(当時あった都立大学の直ぐ横にあった)に住むようなことにもならず、上井草にも下宿することにはならず、その次に、『ここ』上池袋に下宿を求めることもなかったであろう。

男がそんな感慨に浸っている時であった……

「エヴァンジェリストさん、寒いわねえ。そんなとこ立って、どうしたの?」



(続く)

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