(夜のセイフク[その21]の続き)
「(あの頃、ボクはまだ甘かった…..)」
『火星大接近』の夜空を見る為に庭に出たビエール・トンミー氏は、ただただ聡明で美しかっただけの高校生時代を思い出していた。
2018年7月、ビエール・トンミー氏の自邸である。
見上げる夜空では、大接近してきているはずの火星よりも月の方がずっと大きく見える。
「月……月………ああ、月かあ。チクショー、『月にうさぎがいた』を思い出すなんて!」
ビエール・トンミー氏は、見上げる月にうさぎがいるのが見えてしまった。
「エヴァの奴う…….」
見上げる夜空の月にいる(いるように見えた)うさぎの顔が、エヴァンジェリスト氏の顔になった。
「『月にうさぎがいた』なんて巫山戯たことを……」
ビエール・トンミー氏の呟きは、呟きにしては大きな声となっていたが、家の中でテレビの『ウインブルドン2018』を見ている妻には聞こえていなかった。聞こえていたとしたら、マダム・トンミーは、夫を心配したであろう。
「『月にうさぎがいた』ですって!」
そうその通り、『月にうさぎがいた』なんて、そのくらい巫山戯たことであるのだ。
1970年、広島県立広島皆実高校1年7ホーム(クラスのことを皆実高校では『ホーム』と呼んだ。今もそうかもしれない)の生徒であったビエール・トンミー君は、その巫山戯た『月にうさぎがいた』なる書き物を読まされたのである。
(続く)