2018年7月31日火曜日

夜のセイフク[その22]






「(あの頃、ボクはまだ甘かった…..)」

『火星大接近』の夜空を見る為に庭に出たビエール・トンミー氏は、ただただ聡明で美しかっただけの高校生時代を思い出していた。

2018年7月、ビエール・トンミー氏の自邸である。

見上げる夜空では、大接近してきているはずの火星よりも月の方がずっと大きく見える。

「月……月………ああ、月かあ。チクショー、『月にうさぎがいた』を思い出すなんて!」

ビエール・トンミー氏は、見上げる月にうさぎがいるのが見えてしまった。

「エヴァの奴う…….」

見上げる夜空の月にいる(いるように見えた)うさぎの顔が、エヴァンジェリスト氏の顔になった。

「『月にうさぎがいた』なんて巫山戯たことを……」

ビエール・トンミー氏の呟きは、呟きにしては大きな声となっていたが、家の中でテレビの『ウインブルドン2018』を見ている妻には聞こえていなかった。聞こえていたとしたら、マダム・トンミーは、夫を心配したであろう。

「『月にうさぎがいた』ですって!」

そうその通り、『月にうさぎがいた』なんて、そのくらい巫山戯たことであるのだ。

1970年、広島県立広島皆実高校1年7ホーム(クラスのことを皆実高校では『ホーム』と呼んだ。今もそうかもしれない)の生徒であったビエール・トンミー君は、その巫山戯た『月にうさぎがいた』なる書き物を読まされたのである。





(続く)



2018年7月30日月曜日

夜のセイフク[その21]






「ふふふ……」

机の横に立つもう一人の美少年の鼻の穴が更に開いた。

「(え……?これは……)」

『何会』と書かれた見すぼらしい冊子のようなものの表紙をめくった中に書かれた文字を見て、ビエール・トンミー君は、自身の美少年な顔をひょっとこ顔にしてしまっていた。



「(『月にうさぎがいた』だってええ……..)」

そうなのだ。エヴァンジェリスト君が、ビエール・トンミー君の机の上に置いた、ちぎったノートのページをホッチキス止めしたものの表紙をめくった次のページに書かれていた文字は、『月にうさぎがいた』だったのである。

「(何なんだ、これは…..?)」

1970年の広島県立広島皆実高校1年7ホームの教室である(クラスのことを皆実高校では『ホーム』と呼んだ。今もそうかもしれない)。昼休みであった。

「家に持って帰っていいよ。ゆっくり読めばいいさ」

ネイティヴな広島人であるのに広島弁を使わぬもう一人の美少年は、そう云うと、ビエール・トンミー君の席から離れて行った。



(続く)



2018年7月29日日曜日

夜のセイフク[その20]





その時、『何会』が『何』であるのか、創始者であるエヴァンジェリスト君以外の誰にもまだ分っていなかった。

『何会』は、謎に包まれていた。

だから、自分の机の上に置かれた見すぼらしい冊子のようなもの、そう、ちぎったノートのページをホッチキス止めしたものを見て、

「(『何会』の特別会員は、美少年、または、美少女に限る、とでも書いてあるのだろう)」

とビエール・トンミー君が思ってしまったのも無理はなかった。

『何会』に何がしかの共通項を見出すとすると、『美少年』しかないのだ。エヴァンジェリスト君と自分との共通項だ。

見すぼらしい冊子のようなものは、『何会』の会則を記したもので、そこに特別会員の資格等が記載されていると考えたとしても責めることはできない。

「中を見ていいんだよ」


机の横に立つエヴァンジェリスト君の声に、ビエール・トンミー君は、我に返った。

1970年の広島県立広島皆実高校1年7ホームの教室である(クラスのことを皆実高校では『ホーム』と呼んだ。今もそうかもしれない)。昼休みであった。

「ああ….」

ビエール・トンミー君は、『何会』と書かれた見すぼらしい冊子のようなものの表紙をめくった。

「え……!」

思わず声を上げた。



(続く)


2018年7月28日土曜日

夜のセイフク[その19]






「(…….)」

心の中の呟きもなく、美少年ビエール・トンミー君は、小首を傾げた。

「ふふ……」

机の横に立つもう一人の美少年が、鼻から微かに笑いを零した。

「(『何会』…….)」

机の上に置かれた見すぼらしい冊子のようなもの、そう、ちぎったノートのページをホッチキス止めしたものの表紙には、『何会』と書いてある。

「(『何会』の『何』なんだ、これは?)」

ビエール・トンミー君は、『何会』のマジックの渦に吸い込まれていっていた。


1970年の広島県立広島皆実高校1年7ホームの教室である(クラスのことを皆実高校では『ホーム』と呼んだ。今もそうかもしれない)。昼休みであった。

「(そうか…….会則かあ……)」

見すぼらしい冊子のようなものは、『何会』の『会則』ではないかと思ったのだ。

「(『何会』の特別会員は、美少年、または、美少女に限る、とでも書いてあるのだろう)」


(続く)



2018年7月27日金曜日

夜のセイフク[その18]






「(な、なんなんだ、これは?)」

それが、自分が待っていたもの(待たされていたもの)であることは、分ったが、ビエール・トンミー君には、それが『何』であるかは分らなかった。

「これだよ」

と、エヴァンジェリスト君が、ビエール・トンミー君の机の上に置いたものは、ノートのページをちぎったものをホッチキス止めしたものであった。

「(ボクは、これを待っていたのか…..)」

1970年の広島県立広島皆実高校1年7ホームの教室である(クラスのことを皆実高校では『ホーム』と呼んだ。今もそうかもしれない)。昼休みであった。

エヴァンジェリスト君から、

「もうしばらくだからね。もう少しだけ待ってね」

と勿体をつけられていたものが、ちぎったノートのページをホッチキス止めした見すぼらしい冊子のようなものであったのだ。

「(ボクは、こんなものを待っていたのか…..)」

ビエール・トンミー君は、言葉を失っていたが、

「いいんだよ、見て」

と、エヴァンジェリスト君は屈託がなかった。

無言のまま、ビエール・トンミー君は、その冊子のようなものの表紙を見た。


そこに書かれていた文字は(勿論、手書きである。まだ、パソコンもワープロのある時代ではなかった)、『何会』であった。



(続く)


2018年7月26日木曜日

夜のセイフク[その17]



夜のセイフク[その16]の続き)



「これだよ」

ビエール・トンミー君の机の上に何か冊子のようなものが置かれた。

「はあ?」

ビエール・トンミー君は、一旦、冊子のようなものを見た後、自分の机の横に立つ人物を見上げた。

1970年の広島県立広島皆実高校1年7ホームの教室である(クラスのことを皆実高校では『ホーム』と呼んだ。今もそうかもしれない)。昼休みであった。

「お待たせしたね」

エヴァンジェリスト君が、微笑んでいた。

「もうしばらくだからね。もう少しだけ待ってね」

と、エヴァンジェリスト君に耳元で囁かれて5日後である。

「(え?.....これを待っていたのか?)」

ビエール・トンミー君は、自分が思い上がっていたことを知った。

「もうしばらくだからね。もう少しだけ待ってね」

と、(多分)自分だけがエヴァンジェリスト君にそう囁かれて、もうすっかり『何会』の共同創始者気分になっていたのであった。

そして、『何会』について、

「(そうだ、『何会』は、人々に楽しみを、喜びを与えるのだ)」

とさえ思うようになっていたのだ。

しかし、実際のところ、自分自身は、それから人々に対して楽しみを与えるも、喜びを与えるも、いや、『何』をするでもなく、『何』をできるでもなかったことを、『今』知った。

自分自身が『何』かをするではないにしても、

「これだよ」

とエヴァンジェリスト君に云われるまでは、『何』を待っているのかさえ知らなかったのだ。



しかし、『今』、ビエール・トンミー君は、自分が待っていたものを知った。

それは、『今』、ビエール・トンミー君の机の上に置かれていた。


(続く)



2018年7月25日水曜日

夜のセイフク[その16]






「(ミージュ君も、楽しみにね)」

1970年の広島県立広島皆実高校1年7ホームの教室の片隅で、その日もジロチョー君に何かを見せられているミージュクージ君を見遣って、心の中で呟いたものの、ビエール・トンミー君も、楽しみにするのは何であるのか、勿論、分っていなかった。

「もうしばらくだからね。もう少しだけ待ってね」

と、エヴァンジェリスト君に、(多分)自分だけ耳元で囁かれたビエール・トンミー君は、もうすっかり『何会』の共同創始者気分になっていたのだ。

実は、ビエール・トンミー君もエヴァンジェリスト君も知る由がなかったが、ほぼ同じ時期に(正確には、1年後の1971年であるが)、二人のスティーブは出会ったのである。

スティーブ・ジョブズとスティーブ・ウオズニアックである。『Apple』の共同創始者である。二人の天才である。



しかし、広島皆実高校1年7ホームの二人の美少年は、『Apple』のような世界を変えるものを生み出しはしなかった。高校時代は勿論、その後の人生に於いても。

しかし、敢えて、この二人の美少年が生み出したものがあるとすると、このBlog『プロの旅人』であろうか。

Blog『プロの旅人』は、この二人の美少年(今やただの醜い変態老人たち)の行状記だからである。

尤も、『Apple』と異なり、Blog『プロの旅人』は、世界を変えるどころか、ほんのちょっぴりも世界の役に立つ要素はない。

しかし、

「もうしばらくだからね。もう少しだけ待ってね」

と、エヴァンジェリスト君に、(多分)自分だけ耳元で囁かれた時、ビエール・トンミー君には、何か志のようなものが芽生え始めていた。

「(そうだ、『何会』だ。『何会』は、人々に楽しみを、喜びを与えるのだ)」

と。



(続く)




2018年7月24日火曜日

夜のセイフク[その15]





それは、エヴァンジェリスト君のテクニックであったのだろうか?或いは、彼が天性の人ったらしであったからなのであろうか?

「もうしばらくだからね。もう少しだけ待ってね」

と、エヴァンジェリスト君に耳元で囁かれて、ビエール・トンミー君は舞い上がったのだ。エヴァンジェリスト君は、自分にだけ囁いたのだ(少なくとも、ビエール・トンミー君はそう思った)。

「(そうか!ボクは違うんだ。ボクだけは、他の会員連中とは違うんだ!)」

自分は、『何会』の特別会員だろうと、いや、『何会』の共同創始者と云っていいのかもしれない、と思えたのだ。

「(ミージュ君も、楽しみにね)」



教室の片隅で、その日もジロチョー君に何かを見せられているミージュクージ君を見遣って、心の中で呟いた。

1970年の広島県立広島皆実高校1年7ホームの教室で(クラスのことを皆実高校では『ホーム』と呼んだ。今もそうかもしれない)、昼休みである。


(続く)




2018年7月23日月曜日

夜のセイフク[その14]






「(美少年ではないミージュ君も入れて、『何会』は何をするのだ?)」

というビエール・トンミー君の疑問は、その後、更に膨らんだ。

エヴァンジェリスト君は、『何会』にミージュ君以外にも3-4人入会させたのである。その中には、女子生徒も2人含まれていた。

女子生徒も会員であるならば、『何会』は美少年の『会』ではない。

会員の女子生徒たちが、美少女なら、美少年と美少女との『会』と理解してもよかったが、その女子徒たちは、いたって普通の容貌の持ち主であった。また、ミージュ君以外の会員男子生徒たちも、いたって普通の容貌の持ち主であったのだ。

「(エヴァ君は、アイツらを入会させて、一体、何をするつもりなのだ?)」

聡明なビエール・トンミー君ではあったが、美少年でも美少女でもない者たちが『会員』になっていることへの不満感が勝り、『何会』が仮に美少年の『会』、或いは、美少年と美少女との『会』であったとしても、ただそれだけでは何をする『会』か不明であることに思い到らなかった。

しかし、そんなビエール・トンミー君の思いを見透かしたのか、エヴァンジェリスト君が、ビエール・トンミー君の耳元に囁いた。

その日も、1970年の広島県立広島皆実高校1年7ホームの教室で(クラスのことを皆実高校では『ホーム』と呼んだ。今もそうかもしれない)、昼休みであった。

「もうしばらくだからね。もう少しだけ待ってね」

他の会員には、何も告げず(少なくとも、ビエール・トンミー君が知る限りはそうだった)、ビエール・トンミー君にだけ、エヴァンジェリスト君は、囁いたのだ。



「(そうか!ボクは違うんだ。ボクだけは、他の会員連中とは違うんだ!)」


(続く)





2018年7月22日日曜日

夜のセイフク[その13]






「(ミージュ君には悪いが……)」

ビエール・トンミー君は、そう思わざるを得なかったのだ。

1970年の広島県立広島皆実高校1年7ホームの教室で(クラスのことを皆実高校では『ホーム』と呼んだ。今もそうかもしれない)、昼休みである。

「ミージュ君も会員になったよ」

と、エヴァンジェリスト君が報告してきたが、ビエール・トンミー君は、ミージュクージ君は、『何会』の入会資格がない、と思ったのだ。



「(ミージュ君は、ボクたちのような美少年ではない)」

そうなのだ。ビエール・トンミー君は、自らも気付かない内に、何の『会』か不明であった『何会』は、美少年の『会』だと思うようになっていたのだ。

「みんなで仲良くやろうよ!」

エヴァンジェリスト君は、何を考えているのか、分らない。

「(美少年ではないミージュ君も入れて、『何会』は何をするのだ?)」

ビエール・トンミー君は、ミージュクージ君の入会に不満を抱きながらも、再び、『何会』が何の『会』であるのか不明、という疑問に思い到った。


(続く)


2018年7月21日土曜日

夜のセイフク[その12]






「(フォーリーブスも敵わないだろう)」

ビエール・トンミー君は、口の中で、当時、人気絶頂であったアイドル・グループの名前を呟くと、側に立っていた同級生を見上げた。

「(エヴァ君も『相当』だ)」

1970年の広島県立広島皆実高校1年7ホームの教室である(クラスのことを皆実高校では『ホーム』と呼んだ。今もそうかもしれない)。

「(エヴァ君も、ボクの『敵』とまではいかないとはいえ、『相当』だということは認めざるを得ない)」



牛田中学では、ビエール・トンミー君は、『敵』なしであった。

牛田中学では、下校の時、自分の10m後ろを毎日のように女子生徒たちが付けてきていることを知っていた。

「あの子、素敵じゃねえ」

女子生徒たちの声は聞こえていた。

「格好ええよねえ」
「付きおうてくれんかねえ」
「近寄ったら、ええ匂いがしたんよ」
「頭もええんじゃと」

しかし、声を掛けてくるまでのことはなかった。それは何故なのか、分っていた。

『高嶺の花』過ぎたのだ。

「(エヴァ君も、『高嶺』ではないかもしれないが、『花』がある)」

しかし、エヴァンジェリスト君は、今、こう云ったのだ。

「ミージュ君も会員になったよ」


(続く)



2018年7月20日金曜日

夜のセイフク[その11]







「(ミージュ君と、ボクたちとは違う)」

そう思ったビエール・トンミー君は、その時、自身の中でいつの間にか、『何会』とは何の『会』であるのか、イメージを作りかけていたのだ。

「(この教室の中で…)」

1970年の広島県立広島皆実高校1年7ホームの教室である(クラスのことを皆実高校では『ホーム』と呼んだ。今もそうかもしれない)。

「(この教室の中で、『何会』に相応しい者は、エヴァ君と自分だけであろう)」

自惚れではなく、聡明なビエール・トンミー君は、『その』自覚があったのだ。

「(フォーリーブスも敵わないだろう)」



ビエール・トンミー君は、口の中で、当時、人気絶頂であったアイドル・グループの名前を呟いた。



(続く)



2018年7月19日木曜日

夜のセイフク[その10]







「(違うだろ!?)」

ビエール・トンミー君が、そう思わざるを得なくなった時、彼は既にエヴァンジェリスト君の術中にハマってしまっていたのだ。


「(エヴァ君ともあろう者が…..)」

いや、エヴァンジェリスト君は、ビエール・トンミー君に術をかけた訳でも、罠に嵌めた訳でもなかったであろうが、結果として、ビエール・トンミー君は、エヴァンジェリスト君のペースに合されてしまっていたのだ。

「(ミージュ君は、違うだろう…..)」

と思うようになってしまったビエール・トンミー君は、もう立派な『何会』の会員になっていたのだ。

だから、思うのだ。

「(ミージュ君と、ボクたちとは違う)」


(続く)



2018年7月18日水曜日

夜のセイフク[その9]







しかし、ビエール・トンミー君は、不満であった。

「(どうして、彼が会員なんだ?)」

1970年の広島県立広島皆実高校1年7ホームの教室で(クラスのことを皆実高校では『ホーム』と呼んだ。今もそうかもしれない)、昼休みに、眠たげにジロチョー君に何か見せられていたミュージ君こと、ミージュクージ君を見て、疑問、というよりも不満な感情を持ってしまった。

「みんなで仲良くやろうよ!」


エヴァンジェリストの君の言葉には、屈託というものがなかった。

「(何を仲良くやるのだ?)」

自分が会員にされてしまった『何会』って、何をする『会』か分らないのだ。それなのに、何を仲良くやるのか、ビエール・トンミー君には、理解できなかった。

しかし、今は、『何会』が何をする『会』なのかという根本的疑問よりも目先の疑問に囚われてしまっていた。

「(どうして、彼が会員なんだ?)」

ミージュクージ君は、別に悪い奴ではない。ビエール・トンミー君も、そのことは分っていた。しかし、

「(違うだろ!?)」

と思わざるを得なかったのだ。


(続く)




2018年7月17日火曜日

夜のセイフク[その8]






「じゃ、ビエ君ももう会員だよ」

と、エヴァンジェリスト君が、美少年の同級生ビエール・トンミー君を、自らが主宰する『何会』の会員としたその2-3日後であった。

「ミージュ君も会員になったよ」

1970年の広島県立広島皆実高校1年7ホームの教室である(クラスのことを皆実高校では『ホーム』と呼んだ。今もそうかもしれない)。昼休みであった。

「はあ….?」

ビエール・トンミー君は、忘れかけていたが、思い出した。そうだ、自分は、『何会』の会員になったのだ。

いや、会員になったつもりはなかったが、

「じゃ、ビエ君ももう会員だよ」

と、エヴァンジェリスト君に云われた時、

「あ….?ああ……」

と曖昧に答えてしまい、会員とされてしまっていたのである。

『何会』が何の『会』であるのかは、ビエール・トンミー君は知らなかった。主宰者のエヴァンジェリスト君自らが、何の『会』であるのか分らない、というのだから、『何会』の正体なんて、ビエール・トンミー君が知りようもない。

怪しい宗教のような『会』ではなそうであったし、エヴァンジェリスト君は、やや妙はところは感じられたものの(後年、それが大きな間違いで、『やや』妙ではなく、『相当』妙であることを知ることになったが)、人間としての根幹に『誠実さ』を持っていることは感じられていたのだ。


それに、

「じゃ、ビエ君ももう会員だよ」

とは云われたものの、『会』としての活動は何もなかった。なので、『会員』になったことを後悔することもなく、半ば『何会』のことは忘れかけていたところであった。

「ミージュ君も会員になったよ」

と声を掛けられ、

「(ああ、ボクは会員なんだ、『何会』とやらの)」

と思い出し、教室の中、少し離れた席にいるミージュ君を見遣った。

「(彼も、エヴァ君に会員にさせられてしまったのか….)」

しかし、ミージュ君は、特段の警戒感も危機感も持っているようには見えず、眠たげにジロチョー君に何か見せられていた。


(続く)