2019年7月31日水曜日

住込み浪人[その164]








「(『だもん』は、気持ち悪いが、そうだ、君は正しい)」

少女のように口を尖らせる『住込み浪人』ビエール・トンミー青年に、エヴァンジェリスト青年は、『上から目線な』言い方をする。

「(『SNCF』は、『エス・エヌ・セー・エフ』であり、それは、『フランス国鉄』であり、そして、その正式名称は、Société Nationale des Chemins de fer Français』である)」

エヴァンジェリスト青年は、OK牧場大学の学生食堂の2階の教員と大学院生用の特別食堂の手摺から顔を出しており、『住込み浪人』ビエール・トンミー青年は、下の一般学生用の食堂にいたので、エヴァンジェリスト青年の『姿勢』は、まさに『上から』であったし、エヴァンジェリスト青年の『言葉』は、口から出たものではなく、『目線』で語ったものであったので、まさに『上から目線な』言い方であったのだ。

「(だが……だが、だ)」

『上から目線』で一方的に語ってくる友人に辟易したように、『住込み浪人』ビエール・トンミー青年は、更に口を尖らせる。

「(フランス語を知らない君が、どうしてそんなに『SNCF』に詳しいんだ?)」

エヴァンジェリスト青年の『言葉』は、それは質問ではなく、詰問であった。

「(だって、『フランス語経済学』でボクは、『優』を取ったんだもん!.....んん?『取った』?....過去形?)」



『住込み浪人』ビエール・トンミー青年は、尖らせていた口を、だらしなく緩めた。美青年ぶりも台無しであった。

「(そうさ。君は、『フランス語経済学』で『優』を取ったんだ)」
「(いや、でも、ボクは、まだ『フランス語経済学』なんて習ったことはない。え?どういうことだ?)」
「(自分のことを他人に訊くのか?ふふ。君は、OK牧場大学文学部に入学したばかりのボクが今、文学研究科フランス文学専攻の修正課程にいるなんてあり得ない、と云ったが、君自身、あり得ないことをしているではないか)」
「(ええ!?なんだ、これは一体、どういうことなんだ!?)」

『住込み浪人』ビエール・トンミー青年は、両手で頭を抱え、そのまま頭を揺すった。


(続く)


2019年7月30日火曜日

住込み浪人[その163]







「(じゃ、これはなんと読む?)」

OK牧場大学の学生食堂の2階の教員と大学院生用の特別食堂の手摺から顔を出したエヴァンジェリスト青年は、下の一般学生用の食堂にいる友人の『住込み浪人』ビエール・トンミー青年に、『SNCF』と書いた紙を見せた。

「(エス・エヌ・セー・エフ!)」

『住込み浪人』ビエール・トンミー青年は、声を出さず、叫んだ。

「(ほーらね)」

エヴァンジェリスト青年は、したり顔だ。

「(な、なんだ!それは、『エス・エヌ・セー・エフ』だろうが!)
「(そうだよ)」
「(じゃ、何が、『ほーらね』なんだ!?)」
「(君は、『SNCF』がどうして、『エス・エヌ・シー・エフ』ではなく、『エス・エヌ・セー・エフ』だと知っているんだ?)」
「(は?.....だって、それは『エス・エヌ・セー・エフ』だもん)」
「(『だもん』だなんて、少女みたいに口を尖らせるな。では、『SNCF』て何だ?)」
「(『フランス国鉄』さ!)」



「(ほーらね)」
「(な、なんだ!それは、『SNCF』は、『フランス国鉄』だろうが!)
「(君は、『SNCF』がどうして、『フランス国鉄』だと知っているんだ?)」
「(は?.....だって、それは『エス・エヌ・セー・エフ』だもん)」
「(また、『だもん』かよ。では、『SNCF』の正式名称は何だ?)」
「(『Société Nationale des Chemins de fer Français』!)」
「(ほーらね)」
「(な、なんだ!それは、『SNCF』は、『Société Nationale des Chemins de fer Français』だろうが!)
「(君は、『SNCF』がどうして、『Société Nationale des Chemins de fer Français』だと知っているんだ?)」
「(は?.....だって、それは『エス・エヌ・セー・エフ』だもん)」


(続く)



2019年7月29日月曜日

住込み浪人[その162]







「(そうだ!『帝立』かなんか知らんが、『テイトー』(帝立大学東京)なんて大学、存在しないぞ。)」

OK牧場大学の学生食堂で、『チーズインモーハンバーグ・カレー』かなんだか分からないが、兎に角、カレーを前にしたまま、『住込み浪人』ビエール・トンミー青年は、自分だけの世界に入り込んでいた。

「ふふふ」

頭上から含み笑いが降ってきたが、『住込み浪人』ビエール・トンミー青年は、気付かない。

「(だから、『テイトー王』なんてクイズ番組もあるはずがない。何だか似たようなクイズ番組はあるように思うが。EBSテレビなんてテレビ局も知らないぞ。そんなテレビ局なんてない!だから、『サトミツ』なんで女子大生もいるはずがない。似たようなテレビ局の似たような番組に、可愛い女子大生が出てはいるが。んぐっ!)」

『住込み浪人』ビエール・トンミー青年は、『んぐっ!』したが、学食の周囲の学生たちには、カレーを前にして、唾を飲み込んだように見えたかもしれない。

「(ボクが目指すのは、兎に角、ハンカチ大学なんだ)」

『住込み浪人』ビエール・トンミー青年は、股間に両手を置いたまま、背筋を伸ばした。

「ふふふ」

ようやく頭上からの含み笑いに気付き、見上げた。


「よ!」

『住込み浪人』ビエール・トンミー青年の数々の疑問を弾き飛ばすような屈託のない声と共に、友人のエヴァンジェリスト青年が、2階の『特別食堂』の手摺から顔を出した。

「(エヴァ!君は、どうして教員用の『特別食堂』にいるんだ?おかしいぞ)」
「(大学院生も『特別食堂』を使えることは説明しただろ)」
「(そこだ。そもそもそこがおかしいのだ。どうして君は、大学院生なんだ。君は、一浪した後、ここOK牧場大学文学部に入学したばかりのはずだ。ボクは二浪中だ。ボクたちは、広島皆実高校の同級生だ。ということは、君はまだ学部の一年生のはずだ。なのに、君は今、文学研究科フランス文学専攻の修正課程だというが、そんなことがあるはずがない!)」
「(ほほー。相変らず論理的だな。さすがインテリ変態だけのことはある)」
「(茶化すんじゃない!)」
「(飛び級したって云っただろうに)」
「(まだ専攻さえ決まっていない文学部の1年から修士課程に飛び級なんてあり得るはずがない!)」
「(前にも云ったはずだが、そんな固定観念に縛られていてはダメだ)」
「(これは、固定観念の問題ではない。事実だ!)」
「(ふん!君だって、随分、固定観念から外れたことをしているではないか)」
「(ん?)」


(続く)




2019年7月28日日曜日

住込み浪人[その161]







「(おかしいぞ。『チーズインモーハンバーグ・カレー』なんてあり得るはずがないし、それに、何故、なんでもかんでも『インモー』なんだ?)」

OK牧場大学の学生食堂である。『住込み浪人』ビエール・トンミー青年は、空いている席につき、机の上にトレイを置く。

「(何故、<ああ、『インモー』>、と歌うのだ。『アマゾネス・ジャン』のあの歌の歌詞は、『アーイノー』のはずだ)」

トレイに乗ったカレーは、黙っている。

「(んん?『アマゾネス・ジャン』?誰だ、それは?中国系だが、ブラジル出身?香港出身の中国系で似た名前の女性アイドル歌手なら知っているし、ある時期、夢中になったものだが……んん?ある時期?んん?)」

トレイに乗ったカレーは、黙ったまま、動かない。

「(あの女子学生『サトミツ』だって、変だ。何故、『サトミツ』がOK牧場大学の学生なんだ。彼女は、『テイトー』(帝立大学東京)の学生のはずだ。しかも、ボクがパジャマを着ているのを見て、『インモー』着てる、って云った。それじゃ、ボクは体中、毛むくじゃらではないか。まるで、ゴリラだ!)」

いや、トレイに乗ったカレーからは、湯気が出ていたので、ある意味では、動いていた。


「『サトミツ』は、『寮』の台所で漢字の書き取りの指導もしていたことも、なんだか気になるが、教えていた漢字が、『インモー』とはどういうことだ!漢字の書き取りの問題に、『インモー』が出るなんて聞いたことがない。しかも、『サトミツ』は、台所に近付いたのをボクと悟り、『ひょっとしてビエール君?』と云った。どうして、ボクのことを知っているんだ?)」

トレイに乗ったカレーは、黙ってはいたが、存在感を感じさせる。

「(いや、『サトミツ』は、EBSテレビのクイズ番組『テイトー王』でボクと対決したから、知っているんだ………..いや….?....え?ボクは、『テイトー王』に出演したんだったかな?......そうかあ、ボクは、『テイトー』に合格したのに入学を辞退したことから、『テイトー王』に出演することになったんだ。….んん?ボクが、『テイトー』に合格したのに入学を辞退した???なんだそれは……)」

トレイに乗ったカレーの沈黙は、神の沈黙のように、示唆的と見えるかもしれない。

「(ボクは、『テイトー』に合格どころか、受験すらしたことはないぞ。だから、『テイトー王』に出演するなんて変だ。…..んん?いやいや、そもそも『テイトー』(帝立大学東京)って何だ?『帝立』って、戦前じゃあるまいし。今は、一応、国民主権ではないか。主権を失ったかつての支配者及びその後継者や一族を有難がっているかつての被支配者層の国民が多いから、何が国民主権かとは思うが。….え?ボクは、何を云ってるんだ?)」


(続く)



2019年7月27日土曜日

住込み浪人[その160]







「おいおい!『んぐっ!』だか『うふん』だか知らないけど、早くしてくれよ!もうカレー出てんだろ!」

OK牧場大学の学生食堂のカレー担当のオバチャンに、カウンターでカレーを渡されたものの、その場で固まったままとなっている『住込み浪人』ビエール・トンミー青年を、列のすぐ後ろの男子学生が、叱り飛ばした。

「は!...あ、は、はい…….」

トレイに乗ったカレーを持つ手を震わせながら、『住込み浪人』ビエール・トンミー青年は、カレーのカウンターを離れた。

「(でも、でも、これは、『チーズインモーハンバーグ・カレー』なんだ!)」

歩みを進める脚も震えていた。

「(これを…..これを…..ボクは食べないといけないのか?)」

カレー担当のオバチャンの顔が、瞼に浮かんで来る。

「たっぷり入れといたよ!」

そうだ。オバチャンは、確かにそう云った。

「(んぐっ!)」

瞼の中の視線が、オバチャンの顔から下に下がっていったのだ。

「(いや、そんなバカな!そんなものをカレーに入れるなんて、あり得ない!........それに…….)」

鍋の中でカレーが泡吹くように、疑問が、『住込み浪人』ビエール・トンミー青年の頭の中に次々と浮かんできた。




(続く)



2019年7月26日金曜日

住込み浪人[その159]







「はーいよ!たっぷり入れといたよ!」

と云うと、OK牧場大学の学生食堂のカレー担当のオバチャンは、『チーズインモーハンバーグ・カレー』を、いや、『チーズインハンバーグ・カレー』であろうか、ええい面倒臭い、なんだかよく分からないが、兎に角、カレーを、『住込み浪人』ビエール・トンミー青年が注文したカレーを、んん?、いやいや、『住込み浪人』ビエール・トンミー青年が注文するだろうとオバチャンが勝手に判断して、勝手に受注したカレーをオバチャンは、トレイに乗せ、『住込み浪人』ビエール・トンミー青年に渡した。

「(いや…..何かわからないが、そんなものをたっぷり入れられても…….)」

『住込み浪人』ビエール・トンミー青年が不満げな様子を見せると、

「ええ?!なんだい?何か文句あんのかいっ?」

オバチャンは、目尻をあげて、怒鳴るように云った。最後の『っ』で唾が飛び、それは、その『チーズインモーハンバーグ・カレー』かなんだかよく分からないカレーに入った。



「あっ!」
「なにい!だから、文句あのんか、って云ってんだよ!アンタ、自分が可愛いと思って、アタシがいつまでも容赦すると思ったら大間違いだよ!」
「いや、そういうことではなくって……」
「アタシャね、知ってんだよ!アンタ、『サトミツ』見て、『んぐっ!』してただろ」
「ええ!どうして、それを…..いや…..」
「アタシの『うふん』で、『んぐっ!』しただろ!」
「いや、そんなことは…..」
「だって、股間を手で隠したじゃないか!」
「(見てたのか?!)」
「それに、アンタ、さっき、アタシのお尻見てただろ!」
「うっ!」
「で、『んぐっ!』したんだろ!」
「いや…..」
「それもこれも、ここにいるみんなに話しちゃっていいのかい!?」
「え!いや、そ、そ、それは.......」


(続く)



2019年7月25日木曜日

住込み浪人[その158]

 





「あ…..ああ…..」

列の後ろの男子学生に怒られ、『住込み浪人』ビエール・トンミー青年は、股間を手で隠したまま、間の抜けた声を出した。OK牧場大学の学生食堂で、カレーのカウンターの列の先頭に来ていたのに、注文をしないことを怒られたのだ。

「そうだよ、何にすんのさ?まあ、いつものでいいんだろ。スミローちゃん?!」

『住込み浪人』ビエール・トンミー青年の注文を待たず、カレー担当のオバチャンは、そう決めつけると、カウンターに背を向け、厨房に注文を告げた。

「はーい!『チーズインモーハンバーグ・カレー』、一つ!」

固った。『住込み浪人』ビエール・トンミー青年は、オバチャンの言葉に固った。

「(え!?え!?ええー!)」

カウンターに背を向けたオバチャンの大きなお尻が、ブルブル震えていた。



「(んぐっ!.....いや、な、な、なんなんだ!?『チーズインモーハンバーグ・カレー』だってえ!?)」

『チーズインハンバーグ・カレー』なら分るが、『チーズインモーハンバーグ・カレー』なんて聞いたこともなく、『チーズインハンバーグ・カレー』にしたって、そんな少し凝ったものが学食にあるのか、疑問であった。

「(いや、そんなことより何より『インモー』の入ったカレーなんて、ボクは食べたくない!)」

まだ食べていないのに、モドシたい気分になり、『住込み浪人』ビエール・トンミー青年は、自分の喉元を抑えた。


(続く)



2019年7月24日水曜日

住込み浪人[その157]







「あ、すみません」

『住込み浪人』ビエール・トンミー青年は、男子学生に謝った。OK牧場大学の学生食堂にいたのだ。トレイを持って、カレーのカウンターの列に並んでいたが、列が進み、『住込み浪人』ビエール・トンミー青年とその前の男子学生との間が空いていたのだ。

「ふん!『住込み浪人』か」

男子学生は、ジャージを着ているように見えた男を『住込み浪人』と看破していた。

「だせーなあ」

OK牧場大学の学生で、大学構内にジャージ姿でいる者なんていないのだ。それで、『住込み浪人』と判断したのであろうが、結果は正しかったものの、ジャージを着ているように見えた男が着ていたのが、実はパジャマであることまでは分らなかったようだ。

「(んん?)」

『住込み浪人』ビエール・トンミー青年は、虚空を凝視めた。以前にも、同じようなことをここで(学食のカレーの列で)云われたことがあるような気がした。『寮』に台所で『サトミツ』を見た時からあったdéjà-vu(デジャヴュ)感が、ますます強くなってきた。

その時…….

「スミローさん!」

誰かを呼ぶ声がした。

「兄ちゃん、アンタだよ!」

学食のオバチャンである。OK牧場大学の学生食堂のカレー担当のオバチャンであった。

「ん?.....」

カレーのカウンターの列に並んでいた『住込み浪人』ビエール・トンミー青年は、声の方に顔を向けた。

「(ああ、『サキ』さん)」

その時、初めて、『住込み浪人』ビエール・トンミー青年は、カレー担当のオバチャンが呼んだのが自分であることを認識した。いつの間にか(なんだか、あっという間であったような気がするが)、列の先頭に来ていたのだ。



「そうだよ、『サキ』だよ」
「(え?どうして、ボクは、このオバチャンの名前を『サキ』さんだと知ってるんだ?)」
「『サキ』さんなんて水臭い!『サキ』でいいんだよ。うふん」

その『うふん』に、『住込み浪人』ビエール・トンミー青年は、不覚にも股間を手で隠した。

「おいおい、いい加減にしろよな。君の番だろ、さっさと注文しろよ!」

列の後ろの男子学生がまた、怒ってきた。


(続く)


2019年7月23日火曜日

住込み浪人[その156]







「ああ、『インモー』…..」

頭の中に聞こえてきた女性アイドル歌手が、そう歌ったのだ。少なくとも『住込み浪人』ビエール・トンミー青年には、そう聞こえたのだ。

「(ええー!どうしてだ?そんな歌詞ではなかったぞ!んぐっ!)」

そうだ。その女性アイドル歌手のその歌にそんな歌詞はなかった。実際には、

「アーイノー…..」

という歌詞であったが、『住込み浪人』ビエール・トンミー青年の頭には、いや股間には、

「ああ、『インモー』…..」

と聞こえていたのだ。



「(おかしい!おかしいぞ、なんだか)」

『住込み浪人』ビエール・トンミー青年は、眼を閉じ、頭を振った。

「君いー、悪いんだけど、先に進んでくれない」

男子学生の声に、『住込み浪人』ビエール・トンミー青年は、我に返り、閉じていた目を開けた。


(続く)




2019年7月22日月曜日

住込み浪人[その155]







「綺麗だった…..ああ、女子大生はいい。綺麗だ。特に、『サトミツ』はやはり綺麗だ。どうして、ここにいるのか、分らないが。いや、『寮』にもいたし….」

OK牧場大学の学生食堂のある棟に向いながら、で、まだ、『サトミツ』に限らず、女子大生なる存在と交わることのない『住込み浪人』ビエール・トンミー青年は、呟いた。

「い、いや、違う!女子大生のせい、『サトミツ』のせいではないんだ……」

と、誰にも聞こえぬよう云いながら、『サトミツ』と見えた女子大生に指摘された体のある部分を抑えた。

「オッカーのシータ……」

頭の中に、ある女性アイドル歌手の唄声が響いた。

「ウッラナイするのよ…..」

また、なんだかdéjà-vu(デジャヴュ)感がしてきた。

「ああ、占ってみたいさ…..今度こそ」

今度こそ、ハンカチ大学に合格したく、それが叶うか否か、花で占ってみたかった。



だが…..

「う、うーっ!」

『住込み浪人』ビエール・トンミー青年の眼には、OK牧場大学の校庭は映らず、女性アイドル歌手のミニ・スカートから出たムチッとした太腿が、VRを見るように映っていたのだ。

「受験だ。試験があるのだ。今度こそ、受からないといけないんだ!」

しかし、女性アイドル歌手が、唄いながら、腰を振る度に、眼の前でミニ・スカートがひらめく。

更に、その女性アイドル歌手の歌は続き……

「う、うーっ!」

呻きながら、『住込み浪人』ビエール・トンミー青年は、異様な程に両脚を内股にして、学生食堂のある棟に駆け込んで行った。


(続く)



2019年7月21日日曜日

住込み浪人[その154]







「(どうして…..どうして、また、ここに『サトミツ』がいるんだ?)

OK牧場大学の『住込み浪人』用の『寮』を出たところにいたその女子学生が、本当に『サトミツ』であったかどうかは定かではなかった。しかし、動揺した『住込み浪人』ビエール・トンミー青年は、『インモー』という言葉を発したその女子学生を『サトミツ』だと確信したのだ。

「(どうして、ここでもまた『インモ-』なんだ。あれは、夢だったはずだ)」

その女子学生が発した言葉は、『インモー』ではなく『インナー』であったのだが、『当時』はまだ一般に『インナー』という言葉は使われていなかったので、『住込み浪人』ビエール・トンミー青年が、『インモー』と聞き間違えたのも無理はなかった。

「(んぐっ!)」

クイズ番組『テイトー王』のクイーンである『テイトー』(帝立大学東京)の学生にして、スタンハンセン大学も認めた才媛である『サトミツ』こと『佐藤ミツ』と、そこにいる彼女につながる『インモー』という言葉に、『住込み浪人』ビエール・トンミー青年の股間は、『反応』してしまった。



「なーに、あの人?」

『サトミツ』、いや、チェック柄のロング・スカートに七分袖のミルク・ティー色のニットのセーターを着た女子学生は、明らかに嫌悪の感情を含んだ声を『住込み浪人』ビエール・トンミー青年に向けた。

「(う、うーっ!)」

『住込み浪人』ビエール・トンミー青年は、頬を紅に染めた。

「なんだい?」

チャコールグレイのジャケットの下に白いV字のシャツを着た男子学生が、訊いた。

「アソコよ!」

『住込み浪人』ビエール・トンミー青年は、女子学生に目を向けなかったが、彼女が自分の体のある部分を指差しているが分っていた。

「(ちが、違ううー!)」

背中が、女子学生の視線の矢に射られるのを感じながら、『住込み浪人』ビエール・トンミー青年は、逃げるようにその場から立ち去った。いや、逃げるように、ではなく、実際、逃げたのだ。何も悪いことをした訳でもないのに。


(続く)



2019年7月20日土曜日

住込み浪人[その153]







「なーに、あの人?」

チェック柄のロング・スカートに七分袖のミルク・ティー色のニットのセーターを着た女子学生が、蔑むような眼差しを向けて呟いた…….うつむいて歩いていた為、その女子学生の顔はよく見えなかったが、少なくとも、そう云ったように、『住込み浪人』ビエール・トンミー青年には聞こえた。

OK牧場大学の『住込み浪人』用の『寮』を出たところであった。

「(パジャマがバレたのか?)」

パジャマと云っても、茶色で、ジャージに近いものであり、パジャマとは見えないはず、と思っていたので、少々慌てた。しかし…..

「四田(OK牧場大学の四田キャンパス)で『インモー』着てる奴、初めて見たわ」



女子学生は、並んで歩いていたチャコールグレイのジャケットの下に白いV字のシャツを着た男子学生にそう云った…..と思った。

「(え?『インモー』?)」

『住込み浪人』ビエール・トンミー青年は、女子学生に顔を向けた。

「(綺麗だ…….え!?『サトミツ』!)」

そこには、またもや『サトミツ』がいた…..と思った。


(続く)