(住込み浪人[その160]の続き)
「(おかしいぞ。『チーズインモーハンバーグ・カレー』なんてあり得るはずがないし、それに、何故、なんでもかんでも『インモー』なんだ?)」
OK牧場大学の学生食堂である。『住込み浪人』ビエール・トンミー青年は、空いている席につき、机の上にトレイを置く。
「(何故、<ああ、『インモー』>、と歌うのだ。『アマゾネス・ジャン』のあの歌の歌詞は、『アーイノー』のはずだ)」
トレイに乗ったカレーは、黙っている。
「(んん?『アマゾネス・ジャン』?誰だ、それは?中国系だが、ブラジル出身?香港出身の中国系で似た名前の女性アイドル歌手なら知っているし、ある時期、夢中になったものだが……んん?ある時期?んん?)」
トレイに乗ったカレーは、黙ったまま、動かない。
「(あの女子学生『サトミツ』だって、変だ。何故、『サトミツ』がOK牧場大学の学生なんだ。彼女は、『テイトー』(帝立大学東京)の学生のはずだ。しかも、ボクがパジャマを着ているのを見て、『インモー』着てる、って云った。それじゃ、ボクは体中、毛むくじゃらではないか。まるで、ゴリラだ!)」
いや、トレイに乗ったカレーからは、湯気が出ていたので、ある意味では、動いていた。
「『サトミツ』は、『寮』の台所で漢字の書き取りの指導もしていたことも、なんだか気になるが、教えていた漢字が、『インモー』とはどういうことだ!漢字の書き取りの問題に、『インモー』が出るなんて聞いたことがない。しかも、『サトミツ』は、台所に近付いたのをボクと悟り、『ひょっとしてビエール君?』と云った。どうして、ボクのことを知っているんだ?)」
トレイに乗ったカレーは、黙ってはいたが、存在感を感じさせる。
「(いや、『サトミツ』は、EBSテレビのクイズ番組『テイトー王』でボクと対決したから、知っているんだ………..いや….?....え?ボクは、『テイトー王』に出演したんだったかな?......そうかあ、ボクは、『テイトー』に合格したのに入学を辞退したことから、『テイトー王』に出演することになったんだ。….んん?ボクが、『テイトー』に合格したのに入学を辞退した???なんだそれは……)」
トレイに乗ったカレーの沈黙は、神の沈黙のように、示唆的と見えるかもしれない。
「(ボクは、『テイトー』に合格どころか、受験すらしたことはないぞ。だから、『テイトー王』に出演するなんて変だ。…..んん?いやいや、そもそも『テイトー』(帝立大学東京)って何だ?『帝立』って、戦前じゃあるまいし。今は、一応、国民主権ではないか。主権を失ったかつての支配者及びその後継者や一族を有難がっているかつての被支配者層の国民が多いから、何が国民主権かとは思うが。….え?ボクは、何を云ってるんだ?)」
(続く)
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