2019年7月2日火曜日

住込み浪人[その135]







「ヒロニさんが仰るように、既に勝負はついていますので、『サトミツ』が諒解すれば、という条件付です。勝った方に、1000点入ります」

EBSテレビのスタジオCで収録中のクイズ番組『テイトー王』の司会者の一人、ナンカイノー・アメカイノーが、プロデューサーからの指示として、スペシャル・チャレンジという追加問題の条件を説明した。

「(1000点!?それって、今までの勝負が意味なくなるじゃないの!)」

『テイトー王』のクイーンである『テイトー』(帝立大学東京)の学生にして、スタンハンセン大学も認めた才媛である『サトミツ』こと『佐藤ミツ』は、眉を顰めた。彼女の美貌を損ないかねない表情であった。

「プロデューサーによると、『サトミツ』も、『住込み浪人』君の知力の凄さは分っただろう。たまたまちょっと早く押しただけで勝った、なんて本意ではないだろう、ということです」
「(いや、そんな風には思わないけど….)」
「いや、たまたまちょっと早く押した、というよりも、『住込み浪人』君が、わざと負けたことを知っているだろう、ということのようですよおー!」

ナンカイノー・アメカイノーの挑戦的な言葉は、プロデューサーのものなのか、或いは、根が意地悪なナンカイノー・アメカイノー自身のものであるのか、判然としなかった。

「(わざと負けた?....確かに……)」

『サトミツ』に思い当たる節がない訳ではなかったのだ。負けても背筋を伸ばし悠然としている『住込み浪人』ビエール・トンミー青年を見ていたからである。

「でも、このスペシャル・チャレンジは、あくまで任意だそうです。『サトミツ』の意志次第だそうですよ。『サトミツ』に勝つ自信がなければ、断っていいそうです。ふふ」

ピンクのメガネをかけたブラックな男、ナンカイノー・アメカイノーの面目躍如といった様相である。



「ええー!アタシに勝つ自信がなければ、ですって!」

『サトミツ』は、それまでとは異なり、思いを声に出していた。


(続く)


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