2019年7月29日月曜日

住込み浪人[その162]







「(そうだ!『帝立』かなんか知らんが、『テイトー』(帝立大学東京)なんて大学、存在しないぞ。)」

OK牧場大学の学生食堂で、『チーズインモーハンバーグ・カレー』かなんだか分からないが、兎に角、カレーを前にしたまま、『住込み浪人』ビエール・トンミー青年は、自分だけの世界に入り込んでいた。

「ふふふ」

頭上から含み笑いが降ってきたが、『住込み浪人』ビエール・トンミー青年は、気付かない。

「(だから、『テイトー王』なんてクイズ番組もあるはずがない。何だか似たようなクイズ番組はあるように思うが。EBSテレビなんてテレビ局も知らないぞ。そんなテレビ局なんてない!だから、『サトミツ』なんで女子大生もいるはずがない。似たようなテレビ局の似たような番組に、可愛い女子大生が出てはいるが。んぐっ!)」

『住込み浪人』ビエール・トンミー青年は、『んぐっ!』したが、学食の周囲の学生たちには、カレーを前にして、唾を飲み込んだように見えたかもしれない。

「(ボクが目指すのは、兎に角、ハンカチ大学なんだ)」

『住込み浪人』ビエール・トンミー青年は、股間に両手を置いたまま、背筋を伸ばした。

「ふふふ」

ようやく頭上からの含み笑いに気付き、見上げた。


「よ!」

『住込み浪人』ビエール・トンミー青年の数々の疑問を弾き飛ばすような屈託のない声と共に、友人のエヴァンジェリスト青年が、2階の『特別食堂』の手摺から顔を出した。

「(エヴァ!君は、どうして教員用の『特別食堂』にいるんだ?おかしいぞ)」
「(大学院生も『特別食堂』を使えることは説明しただろ)」
「(そこだ。そもそもそこがおかしいのだ。どうして君は、大学院生なんだ。君は、一浪した後、ここOK牧場大学文学部に入学したばかりのはずだ。ボクは二浪中だ。ボクたちは、広島皆実高校の同級生だ。ということは、君はまだ学部の一年生のはずだ。なのに、君は今、文学研究科フランス文学専攻の修正課程だというが、そんなことがあるはずがない!)」
「(ほほー。相変らず論理的だな。さすがインテリ変態だけのことはある)」
「(茶化すんじゃない!)」
「(飛び級したって云っただろうに)」
「(まだ専攻さえ決まっていない文学部の1年から修士課程に飛び級なんてあり得るはずがない!)」
「(前にも云ったはずだが、そんな固定観念に縛られていてはダメだ)」
「(これは、固定観念の問題ではない。事実だ!)」
「(ふん!君だって、随分、固定観念から外れたことをしているではないか)」
「(ん?)」


(続く)




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