2019年7月5日金曜日

住込み浪人[その138]







「西洋美術史の問題です!」

EBSテレビのスタジオCで収録中のクイズ番組『テイトー王』の司会者の一人、ナンカイノー・アメカイノーが、本当の最終問題を告げ始めた。

「(え?西洋美術史?)」

『住込み浪人』ビエール・トンミー青年は、美術に、それも特に、西洋美術に興味がなくはなかった。

「(でもなあ、西洋美術の歴史はなあ…..)」

回答する気もなかったことを忘れ、困ってしまっている様子が、顔に出た。

「(あら?)」

『テイトー王』のクイーンである『テイトー』(帝立大学東京)の学生にして、スタンハンセン大学も認めた才媛である『サトミツ』こと『佐藤ミツ』は、敵の僅かな表情の変化を見逃さなかった。

「(ふふ。得意じゃないのね、西洋美術史は)」

『サトミツ』の強張っていた両肘と両膝が、少し緩んだ。

「(でも、少し困った顔も可愛いわあ。んぐ!)」

緩んだ肘と肘、膝と膝との間から、靄のようなものが出てきたのを『住込み浪人』ビエール・トンミー青年の眼だけは捉えた。そして、その靄のようなものは、スタジオC中に拡がっていった。



「おい、なんだか、臭くねえか?」

もう一人の司会者、ヒロニが、『異変』に気付いたが、ナンカイノー・アメカイノーは、構わず、問題を読み上げた。


(続く)



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