(住込み浪人[その156]の続き)
「あ、すみません」
『住込み浪人』ビエール・トンミー青年は、男子学生に謝った。OK牧場大学の学生食堂にいたのだ。トレイを持って、カレーのカウンターの列に並んでいたが、列が進み、『住込み浪人』ビエール・トンミー青年とその前の男子学生との間が空いていたのだ。
「ふん!『住込み浪人』か」
男子学生は、ジャージを着ているように見えた男を『住込み浪人』と看破していた。
「だせーなあ」
OK牧場大学の学生で、大学構内にジャージ姿でいる者なんていないのだ。それで、『住込み浪人』と判断したのであろうが、結果は正しかったものの、ジャージを着ているように見えた男が着ていたのが、実はパジャマであることまでは分らなかったようだ。
「(んん?)」
『住込み浪人』ビエール・トンミー青年は、虚空を凝視めた。以前にも、同じようなことをここで(学食のカレーの列で)云われたことがあるような気がした。『寮』に台所で『サトミツ』を見た時からあったdéjà-vu(デジャヴュ)感が、ますます強くなってきた。
その時…….
「スミローさん!」
誰かを呼ぶ声がした。
「兄ちゃん、アンタだよ!」
学食のオバチャンである。OK牧場大学の学生食堂のカレー担当のオバチャンであった。
「ん?.....」
カレーのカウンターの列に並んでいた『住込み浪人』ビエール・トンミー青年は、声の方に顔を向けた。
「(ああ、『サキ』さん)」
その時、初めて、『住込み浪人』ビエール・トンミー青年は、カレー担当のオバチャンが呼んだのが自分であることを認識した。いつの間にか(なんだか、あっという間であったような気がするが)、列の先頭に来ていたのだ。
「そうだよ、『サキ』だよ」
「(え?どうして、ボクは、このオバチャンの名前を『サキ』さんだと知ってるんだ?)」
「『サキ』さんなんて水臭い!『サキ』でいいんだよ。うふん」
その『うふん』に、『住込み浪人』ビエール・トンミー青年は、不覚にも股間を手で隠した。
「おいおい、いい加減にしろよな。君の番だろ、さっさと注文しろよ!」
列の後ろの男子学生がまた、怒ってきた。
(続く)
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