『少年』は、翠町にあった済世愛児園という幼稚園の時代、済世愛児園前まで行ったものの引き返すことが幾度もあった宇品にあった自宅は、長屋であったし、風呂は何世帯もある長屋の共同風呂であったが、貧しい暮らしながら、ハブテン少年ではあったのだ(いや、当時は、まだ『幼児』と云うべきであったであろうが)。
だって、ハブテルと、
「あんたあ、ハブテンさんな」
と母親に叱られるのだ。
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(ハブテン少年[その9]の続き)
「(おおきょうニイチャンが『ミドリチュー』でブラスバンドじゃったら、なんで、ボクもブラスバンドに入らんといけんのんじゃ!?)」
尖らせた口にハブテタ様子を露わにしながら、エヴァンジェリスト少年は、翠町の自宅の門を開け、玄関に向った。
「(お母ちゃんに云うけえ)」
玄関を入った時は、尖らせた口は自然と両端が横に引かれ、もう尖っていなかった。
だって、ハブテテいると、
「あんたあ、ハブテンさんな」
と母親に叱られると思ったのだ。
「(ほいじゃけど、お母ちゃんに云うけえ)」
お母ちゃんなら、なんとかしてくれると思ったのだ。
「ただいまー」
母親はまだ帰宅していなかったが、エヴァンジェリスト少年は、そう云った。そして、靴を脱ぐと、玄関を入ってすぐ眼の前にある『こども部屋』に入った。そこは、男3兄弟の部屋であった。
「ふん!」
おおきょうニイチャンの勉強机に向け、鼻を鳴らし、自分の勉強机に鞄を置いた。
「(たて笛かあ)」
自分の勉強机の横に、小学校時代のたて笛を袋に入れ、ぶら下げたままになっていた。
(続く)
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