(住込み浪人[その173]の続き)
「(いや、おかしいとは思っていたんだ。大学の構内に住みつつ、そこで浪人生活を送るなんて思いもしなかった。でも………ボクが知らない間に、親が、『住込み浪人』の『寮』に入るよう手配してしまったのだ……)」
『住込み浪人』ビエール・トンミー青年は、上に向けていた顔を、眼を閉じながら伏せた。OK牧場大学の学生食堂の2階の特別食堂の手摺から顔を出し、1階にいる自分を見下ろしてきているエヴァンジェリスト青年の冷血な視線に耐えきれなかったのだ。
「(ふふん!君は、その程度の男であったのかっ!)」
エヴァンジェリスト青年の口から飛び出した唾が、『住込み浪人』ビエール・トンミー青年の前に置かれた『チーズインモーハンバーグ・カレー』かなんだか分からないが、兎に角、カレーの中に落ちた。しかし、眼を閉じている『住込み浪人』ビエール・トンミー青年は、そのことに気付かない。
「(だって、親が決めたんだ……)」
『住込み浪人』ビエール・トンミー青年は、ゆっくりと眼を開けた。
「(ボクが君の友人になったのは、君が俗な連中とは違うと思ったからだったのに!だが、君も他の『普通の』連中と同じように、決められたことだから、と唯々諾々と、それに従うと云うのか?それでいいのかっ?)」
『住込み浪人』ビエール・トンミー青年は、眼の前のカレーに、上空から雫が飛び込んでくるのを見た。
「(既定事実に疑問を持つということを何故、『今時の』若人はしないのか!?既定事実が前提となっていること、何故、それを是とするのか?前提を疑え!)」
上を見ずとも、エヴァンジェリスト青年の顔が、普段のおちゃらけ顔とは違ったものとなっていることは、分っていた。が、ふと疑問が湧いた。
「(『今時の』若人は、って、自分だって、若人だろうに。それに若人(わこうど)なんて言い方、古臭い。…ええ?エヴァ、君は一体、何者なんだ?何歳なんだ?)」
(続く)
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