2019年8月15日木曜日

ハブテン少年[その3]




『少年』は、『ミナミショー』の頃も、ハブテン少年ではあったのだ。

だって、ハブテルと、

「あんたあ、ハブテンさんな」

と母親に叱られるのだ。


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「(なんかのう?)」

『この時』、エヴァンジェリスト少年の言葉は、まだ広島弁であった。

「(先生の部屋いうて、どこじゃろう?)」

入学して最初の音楽の授業が終り、階段教室である音楽室の席から立ち上がり、自分たちの教室に戻ろうと、生徒たちが、音楽室の出口に向かおうとした時、音楽のムジカ先生は、生徒の一人、エヴァンジェリスト少年を呼び止めたのだ。

「先生の部屋に来い」

巨体のムジカ先生の後について、音楽室を出て行ったものの、入学して間もないエヴァンジェリスト少年は、まだ『先生の部屋』がどこにあるのか知らなかった。そして、『先生の部屋』に連れていかれる理由も知らなかったのだ。

「(怒られるようなこともしとらんし……)」

そのことから来る不安を帯びた背中が、同じクラスの女子生徒たちには、『憂い』と見えた。

「(ウチは、皆実(みなみ)小学校[ミナミショー]の時から知っとるんじゃけえ)」

と、声としては発しないものの、『美男子』エヴァンジェリスト少年と同じ小学校出身であることを胸の内で自慢する女子生徒もいた。

そうだ。エヴァンジェリスト少年とそのクラスの生徒たちは、『その年』、広島市立翠町(みどりまち)中学[ミドリチュー]に入学したのだ。




(続く)



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