2019年8月23日金曜日

ハブテン少年[その8]




『少年』は、翠町にあった済世愛児園という幼稚園の時代、済世愛児園前まで行って、宇品にあった家に引き返し、家の裏口に蹲っていることが幾度もあった情けいない子ながら、ハブテン少年ではあったのだ(いや、当時は、まだ『幼児』と云うべきであったであろうが)。

だって、ハブテルと、

「あんたあ、ハブテンさんな」

と母親に叱られるのだ。


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「(どうしょう?)」

体はまだ小学生と殆ど変わらず、詰襟の学生服を着ているというよりも、大きめな詰襟の学生服に着られている、といった方が合っているエヴァンジェリスト少年の幼い心は、不安と不満にかき乱されていた。

「(おおきょうニイチャンのせいじゃ)」

エヴァンジェリスト少年の怒りは、長兄に向けられた。音楽のムジカ先生に、ブラスバンド入りすることを強要され、それを拒否できなかったのだ。

「(おおきょうニイチャンが、トロンボーンなんかやっとるけえ、こうなったんじゃ)」



エヴァンジェリスト少年は、男3兄弟の末っ子であった。

「(なんで、おおきょうニイチャンは、『おおきょうニイチャン』なんかのお?)」

と思うことはあったが、長兄が、『大きいニイチャン』であり、それがなまって『おおきょうニイチャン』となったのであろうと推定できたのは、高校生になってからであったように記憶する。

『その時』は、とにかく、

「(おおきょうニイチャンが、いけんのんじゃ)」

と、エヴァンジェリスト少年は、心の中でハブテテいた。


(続く)



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