2019年8月9日金曜日

住込み浪人[その173]







「(君は、『住込み浪人』が何であるのかも分らないまま『住込み浪人』をしているのかね?)」

OK牧場大学の学生食堂の2階の特別食堂の手摺から顔を出し、1階にいる友人を見下ろしているエヴァンジェリスト青年は、攻撃の手を緩めない。

「(『住込み浪人』は、『住込み浪人』さ)」

『住込み浪人』ビエール・トンミー青年は、回答にならない回答をする。

「(『浪人』とは云っても、『傘張り浪人』ではなく、『大学受験浪人』だろ?)」
「(ああ、そうだ。云い方が気に食わんが)」
「(まあ、それはいい。では、『住込み』をする大学受験浪人、って何だ?)」
「(『住込み』をする『大学受験浪人』だ。大学で『住込み』をする『大学受験浪人』だ。大学は、受験する対象の大学が好ましいが、そうでないといけないことはない)」
「(大学で『住込み』をする、って、どういうことだ?)」
「(君も分からん奴だな。いいか、大学構内にある浪人生専用の『寮』に入って、そこで受験勉強する代りに、『大学構内の庭掃除をすること』という条件がついているのだ。それは、まるで『住込み』だ。だから、『住込み浪人』なんだ)」
「(君は、いつも、立て板に水の如く、『SNCF』の解説をするが、それと同じように『住込み浪人』の解説をしてみせるなあ。しかし、君は疑問に思わんのか?)」
「(はあ?)」
「(どうして、受験勉強の為の『寮』の入寮条件に、『大学構内の庭掃除をすること』なんてものがあるのか、君は疑問に思わんのか?)」
「(あ、そのことなら、分ってるさ。きっと、『大学生活を謳歌する同世代の現役学生を横目にしながら、構内の庭掃除をすることで感じる屈辱感をバネに浪人生活を頑張らせよう』、ということなんだ)」
「(『きっと』だって?それは、君の想像、推定ではないか。君は、単なる自分の想像、推定で、入寮条件に納得したのか?いいのか、そんな適当なことで?)」
「(うっ…..)」
「(更に云うとだ。入寮条件に納得するもしないも、何故、入寮したのだ?君は、ボクと同じ広島皆実高校出身で、ご両親も今、広島にいらっしゃる。だから、東京で浪人をするなら、どこかに住まいを見つける必要はあるだろう)」
「(……..)」
「(その場合、普通は、少々贅沢だが、アパート住まいをするか、どこかに下宿するのではないか。ボクは、実際、下宿したし、今も下宿住まいだ。しかし、君は『住込み浪人』の道を選んだ。それは、なぜだ!?)」

2階の特別食堂の手摺から顔を出す友人の顔が、『住込み浪人』ビエール・トンミー青年には、実際の10倍くらいの大きさに見え、迫ってきていた。




(続く)


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