『少年』は、翠町にあった済世愛児園という幼稚園の時代、済世愛児園前まで行って家に引き返すような情けいない子ながら、ハブテン少年ではあったのだ(いや、当時は、まだ『幼児』と云うべきであったであろうが)。
だって、ハブテルと、
「あんたあ、ハブテンさんな」
と母親に叱られるのだ。
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(ハブテン少年[その6]の続き)
「ええのお?!」
少し欧米人の血が入っているのでは、とも見える容貌のムジカ先生の眼差しに、エヴァンジェリスト少年は、身竦まされる。
「あ….」
と、半開きの口から、一音を発することしかできない。『当時』はまだ巷に滅多に外国人を見かけることはなく、ムジカ先生の視線を受け、意思の疎通のしようがない相手と対峙している感覚であったのだ。
「お前、ブラスバンドで、ええのお?!」
ムジカ先生は、もう一度、訊いた、というか、決めつけてきた。
「あ、はい…..」
エヴァンジェリスト少年は、肯定するしかなかった。拒否するようなハブテタ態度を取ることはできなかった。だって、いつも母親に、
「あんたあ、ハブテンさんな」
と躾けられていたのだ。エヴァンジェリスト少年は、 ハブテン少年ではあったのだ。
「ほいじゃ、明日の放課後から音楽室に来い」
と云うと、ムジカ先生は、自分の机に向い、何やら資料をめくり始めた。
「あ、はい…..」
自失したエヴァンジェリスト少年が、音楽教師の教務室を出て、その前の階段を降りていく様を誰かが見ていたら、
「『猿の惑星』のラストシーンの『テイラー』のようだ」
と思ったかもしれないが、『猿の惑星』が公開されたのは、それから1年後のことであったし、『その時』、そこには誰もいなかったので、実際には、誰も、
「『猿の惑星』のラストシーンの『テイラー』のようだ」
とは思わなかった。
(続く)
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