2019年8月12日月曜日

住込み浪人[その176=最終回]







「この『チーズインモーハンバーグ・カレー』に入っているインモーは特別だよ」

OK牧場大学の学生食堂で、『チーズインモーハンバーグ・カレー』かなんだか分からないが、兎に角、カレーを前にした『住込み浪人』ビエール・トンミー青年に、その学食のカレー担当のオバチャン『サキ』が迫ってきていた。

「(は?)」

『住込み浪人』ビエール・トンミー青年は、椅子に座ったまま身を引いた。

「アタシだよ。アタシのインモーが入ってんのさ!」
「(ううっ!尚更、嫌だ!)」
「アンタの股間は、そうは云ってないよ」
「(いや、これは違うんだ….んぐっ!)」
「それにね。この『チーズインモーハンバーグ・カレー』には、唾も入ってるんだよ」
「(ええー!)」
「でもね、それはアタシの唾じゃないよ」
「(良かったあ…..いや、良くはない)」
「アンタさ。アンタの唾だよ。気付かない内に唾が飛んだのさ」
「(なんだ。それなら構わない。…..いやいや、それでも『チーズインモーハンバーグ・カレー』なんて食べられない!)」
「他の唾も入ってるよ」
「(うっ!)」
「2階の男のさ。アンタの友だちだろ。2階から何やら叫んだ時、唾が飛んでチーズインモーハンバーグ・カレー』入ったのさ」
「(友だちでも嫌だ。もう絶対、嫌だ。『チーズインモーハンバーグ・カレー』なんて食べない!)」
「アンタとアンタの友だちの唾で旨味が増してるよ、きっと」
「(嫌だあ!絶対、嫌だあ!)」
「ほーら!ふふんう

オバチャンは、スプーンで『チーズインモーハンバーグ・カレー』を掬うと、それを『住込み浪人』ビエール・トンミー青年の顔に押しやってきた。

「止めろ!止めろ、止めろ!」
「ほーら!ふふんう
「止めろ!止めろ、止めろ!」
「ほーら!ふふんう
「おかしい!おかしいぞ、こんなの!止めろ、止めろ!」
「そうだよ、その調子さ。疑問を持つのさ、総ゆることに。だから、さあ、『チーズインモーハンバーグ・カレー』なんて食べられるものではない、なんて思わず、さあ、召し上がれ。ほーら!ふふんう



「止めろ!止めろ、止めろ!」


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「どうしたの、アータ?」
「止めろ!止めろ、止めろ!」

『住込み浪人』ビエール・トンミー青年は、両腕をクロスさせ、眼前に迫ってきたものから身を守る。

「アータ、大丈夫?アタシよ」
「止めろ、オバチャン!」

クロスさせた両腕で、前は見えない。

「んんまあ!オバチャンですって!アタシ、アータより10歳も若いのよ!」
「え?」

クロスさせた両腕の隙間から、迫ってきた顔を覗く。

「あ!君….」
「何が、『あ!君…』よ。10歳も若いアタシを無理矢理、モノにしておいて、オバチャンだなんて!」
「いや、ち、ち、違うんだ!」

眼の前にいたのは、妻であった。『住込み浪人』ビエール・トンミー青年には、妻がいたのか?

「寝ぼけてたの?汗びっしょりだけど」

妻は、夫の額を手で拭う。そうだ、『住込み浪人』ビエール・トンミー青年には、妻がいた。いや、妻の夫は、『住込み浪人』ビエール・トンミー青年ではなかった。『それから』45年後のビエール・トンミー氏である。

「二浪とかなんとか寝言で云ってたけど、浪人の頃の夢でも見たの?」

昼寝をしていたようであることを知る。

「ああ、そうだ。あの頃は辛かった….」
「でも、そんな時代もあって、アタシと巡り合ったんだもの。総て運命よ。うふっ」
「ああ、そうだね」
『んぐっ!』って、なんだかよく分らない言葉も、何度も云ってたわね。なーに、『んぐっ!』って?」
「ええ!?いや、なんだろう?.....」
『んぐっ!』って云う度、アータの手、股間に行ってたけど」
「へ!」

妻は、汗がしみた夫のパジャマのボタンを外し、ベッドから上半身を起こさせ、パジャマと下着のシャツを脱がせ、タオルで夫の体を拭く。近くに迫った妻の顔と体から、微かな香水と体臭が入り混じった匂いに、夫は、思わず『反応』する。

「んぐっ!」
「まあ!アータ!これなのね!」

妻は、上半身裸の夫をベッドに押し倒した。


(おしまい)



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