2019年8月7日水曜日

住込み浪人[その171]







「(どうだ、ビエール。君はどうして、『カレー担当のオバチャン』の連絡先を持ち続けているんだ?)」

OK牧場大学の学生食堂の2階の特別食堂の手摺から顔を出しているエヴァンジェリスト青年には、『住込み浪人』ビエール・トンミー青年が手にする紙に書かれた文字(『カレー担当のオバチャン』の電話番号)は、丸見えであった。

「(いや、たまたまポケットに入ったままになっていただけだ)」

『住込み浪人』ビエール・トンミー青年は、眼を泳がせている。

「(ふん。『入ったままになっていた』、だって?)」
「(ああ、そうだ。入っていることを忘れていた)」
「(『入っていることを忘れていた』だとは、笑わしてくれるじゃないか)」
「(だって、そうなんだから仕方ないじゃないか)」
「(紙は、勝手に君のポケットに入りはしないぞ)」



「(うっ…..)」
「(君が入れたんだ。だから、云うなら、『入れたままになっていた』だろうよ)」
「(そんなこと、『入ったままになっていた』であろうと、『入れたままになっていた』であろうと、どっちでもいいだろう)」
「(どっちでもいいことはない。大事なのは、君が、『カレー担当のオバチャン』の連絡先が書かれた紙をパジャマのポケットに入れた、ということだ)」
「(パジャマとは云うな。みんな、気付いてないんだから)」
「(君は何故、『サキ』さんの連絡先が書かれた紙をパジャマのポケットに入れたのだ?)」
「(『サキ』さんからもらったからだ。もらったものを捨てる訳にもいくまい)」
「(だが、いつまでも持ち続けてなくても良かっただろうよ。なのに、今も持っていると云うことは、いつか『その時』が来たら、その紙に書かれた番号のところに電話をしようと思っていたのではないのか?)」
「(『その時』が何かは知らないし、『その時』は来ていないし、とにかく、電話はしていない)」
「(じゃあ、その紙を『んぐっ!』に使おうとしていたのか?)」


(続く)


0 件のコメント:

コメントを投稿