『少年』は、翠町にあった済世愛児園という幼稚園似通う最後の年に、親が翠町に建てた家に引っ越して直ぐはテレビを見ることのできない生活となったが、そんなことではハブテン少年ではあったのだ。
だって、ハブテルと、
「あんたあ、ハブテンさんな」
と母親に叱られるのだ。
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(ハブテン少年[その17]の続き)
「(思うとった通りじゃ。ふふ)」
『ミドリチュー』(広島市立翠町中学)のブラスバンド部が練習をする音楽室の入口に立つ、少し欧米人の血が入っているのでは、とも見える容貌で体も大きい男は、独り北叟笑んだ。
「(あの子は、やっぱり大したもんじゃ)」
男は、ムジカ先生で、『あの子』は、アルト・サックスでロングトーンを鳴らすエヴァンジェリスト少年であった。
「ブーーーーーーッ!」
という下手くそなロングトーンが、『大したもの』ではない。
「(ようけ女子部員が入ったけえ)」
エヴァンジェリスト少年のお陰で女子部員が沢山、入ったということなのだ。
「(まあ、あの子のお母さんに、『せんせえ、ウチの子、よろしゅう頼みますねえ』と云われとったんじゃけど)」
そう、親しいエヴァンジェリスト少年の母親から、男3兄弟の末っ子が『ミドリチュー』に入学するにあたって、面倒をみて欲しいと頼まれてはいたのだが、
「(ほいじゃが、こりゃええ、思うたけえのお)」
エヴァンジェリスト少年が、『ミドリチュー』に入学して最初の音楽の授業で、その顔を、その佇まいを見た時、ムジカ先生は、直感したのだ。
「(こりゃ、女子部員が増えるで)」
その想いの通り、その年、『ミドリチュー』のブラスバンド部への女子部員は例年以上であった。ブラスバンド部は元々、女子部員が多いが、その年はただ多いだけではなく、エヴァンジェリスト少年の入部が決った後、立て続けに入部申込みがあったのだ。
「(あれだけハンサムじゃったらのお…..)」
ムジカ先生は、アルト・サックスをつまらなそうに吹く少年をあらためて視る。
「(んん?.......じゃが…..)」
(続く)
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