『少年』は、翠町にあった済世愛児園という幼稚園似通う最後の年に、親が翠町に建てた家の周りの蓮田で、夏場、夜になるとカエルの鳴き声の煩さよりも、広島特有の夕凪の方が嫌ではあったが、そんなことではハブテン少年ではあったのだ。
だって、ハブテルと、
「あんたあ、ハブテンさんな」
と母親に叱られるのだ。
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(ハブテン少年[その18]の続き)
「(今朝のあの子も…….)」
『ミドリチュー』(広島市立翠町中学)のブラスバンド部で、つまらない気持ちを隠しきれないまま、アルト・サックスでロングトーンの練習をするエヴァンジェリスト少年見ながら、ムジカ先生は、その朝のことを回想する。
「(アラン・ドロンみたいなエヴァンジェリストには少し及ばんが……)」
牛田の自宅を出て、バス停に向かう途中、その少年に出会ったのだ。
「(クリント・イーストウッドみたいじゃった)」
テレビ西部劇『ローハイド』で知られ、丁度、その頃、マカロニ・ウエスタンで売れてきていたハンサム俳優に似ていると思ったのだ。
「(ありゃ、女子生徒にモテるじゃろう)」
その少年は、所謂、ピッカピカの学生服を着ており、年恰好からして、エヴァンジェリスト少年と同じく新中学生(中学1年生)とみた。
「(牛田中学なんじゃろうが、あーような子が牛田におったかのお?)」
ムジカ先生は、牛田地区でそれまであんなハンサムな少年を見たことがなかったが、それは当然であった。少年は、その年、山口県宇部市琴芝から広島市牛田に引っ越してきたのだ。
「ジェームズ・ボンドよ!」
ムジカ先生がその少年を『クリント.イーストウッド』と評したことを知ったら、宇部市の女子生徒たちは、そう抗議したであろう。少年は、
「ねえねえ、あの子、『007』みたいじゃない?」
と、宇部市では女子生徒たちに噂されていた。
「そう、私もそう思ってたわ、ジェームズ・ボンドだわ、あの子」
宇部市の神原小学校の女子児童たち、宇部学園女子中学・高校(今の慶進中学・高校)の女子生徒たち、宇部中央高校の女子生徒たちの間でも評判となり、『琴芝のジェームズ・ボンド』となっていたのである。
「(まあ、エヴァンジェリストの方が『ウエ』じゃけどのお)」
ムジカ先生は、眼の前で、下手くそにアルト・サックスを吹く『ミドリチュー』の『アラン・ドロン』と、その朝見かけた『牛田』の『クリント.イーストウッド』という二人の美少年を比べていた。
まさか、それから3年後、その二人の美少年が、広島私立皆実高等学校で同級生となり、今(2019年)に到るまで友となるとは、ムジカ先生は想像だにしなかった。
そう、『牛田』の『クリント・イーストウッド』は、中学1年のビエール・トンミー氏であったのだ。
(続く)
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