2019年9月15日日曜日

ハブテン少年[その31]




『少年』は、『広島カープ』の『藤井弘』内野手が、長打力はあるものの、1964年-1966年の3年間は打率が2割そこそこであったが、そんなことではハブテン少年ではあったのだ。

だって、ハブテルと、

「あんたあ、ハブテンさんな」

と母親に叱られるのだ。


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「(やっぱり、ええ匂いじゃ)」

その部屋は、想像通り、いや妄想通り、いい匂いがした。エヴァンジェリスト少年は、同級生の『クッキー』子さんの家の彼女の部屋にいた。

「(ここじゃったんか)」

『クッキー』子さんの誕生日パーティーに呼ばれたのだ。『クッキー』子さんの家は、翠町の広島大学附属小学校・中学校・高等学校の少し南の方にあった。

「(まあ、ええ…..)」

エヴァンジェリスト少年は、6年前のことを思い出していた。

「(あそこで間違えたけえ、『クッキー』子さんの誕生日パーティーに来とるんじゃけえ)」

そうだった。6年前、広島大学附属小学校の入学試験で、とんでもない失態をしてしまったのだ。

試験会場の4面に配置された机に、教員がいて、机の上に置かれた器具等を使い、受験者(子ども)に質問をするのだ。

「さあ、どっちが重いかな?」

天秤の横に立った教員が、少年(6歳である)にそう訊いた。天秤は、向って右側に錘が置かれ、必然的に右側が下がっていた。

普段はシャイで知らない人にはまともに口もきけない男(6歳である)が、その時だけは何故か、元気に答えた。

「こっち!」



少年(6歳である)が指差したのは、左側であった。




「(ブラスバンドは、あんまりのお…….ほいじゃ、あれで今、ええ匂い嗅いどるんじゃけえ)」

エヴァンジェリスト少年は、『クッキー』子さんの部屋で、『クッキー』子さん自身と他の同級生がいる中で、眼を瞑り鼻を少し上にあげ、左右に振って『クッキー』子さんの部屋の、いや、『クッキー』子さんの匂いであっっただろうか、それを嗅いだ。


(続く)


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