『少年』は、翠町にあった済世愛児園という幼稚園似通う最後の年に、親が翠町に建てた家の周りは蓮田だらけで、夏場、夜になるとカエルの鳴き声が煩かったが、そんなことではハブテン少年ではあったのだ。
だって、ハブテルと、
「あんたあ、ハブテンさんな」
と母親に叱られるのだ。
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(ハブテン少年[その16]の続き)
「(つまらんのー)」
それが、『ミドリチュー』(広島市立翠町中学)のブラスバンド部でアルト・サックスを習い始めた時のエヴァンジェリスト少年の率直な気持ちであった。
「(音を出すのは簡単じゃあ)」
成績優秀、頭脳明晰ではあったが、まだ小学生と少ししか変わらぬ少年で、浅はかであった。サックスは、音を出すこと自体は、難しい楽器ではないのだ。
「(鼓笛隊でも上手かったんじゃけえ)」
そして、既に皆さん、ご存じのようにお調子者であった。
「(たて笛みたいなもんじゃ)」
確かに、サックスは、縦にもつ笛のようなものと云えなくはない。指使いもたて笛に似ている。
「(ほいじゃけど、この本、つまらんのお)」
譜面台において開いているのは、サックスの教則本である。
「(なんで、おんなじ音をずーっと吹かんといけんのんかいのお?)」
ロングトーンの練習の大事さを知らなかった。
「(もう、こうような練習はええ思うんじゃが)」
エヴァンジェリスト少年は、サックスのなんたるかを、サックスの音色とは本来、どのようなものであるのかを知らなかった。
「(ヒザマゲ先輩は上手いけどのお)」
とは思ったが、ヒザマゲ先輩が上手いのは、指使いが上手いとしか思っていなかった。実際には、ヒザマゲ先輩の音もエヴァンジェリスト少年のものとは全然違ったが、『本物』サックスの音色を聞いたことはなかったし、今の時代のようにYouTUBEなりのネットで『本物』を聞く機会はなかったのだ。
しかし…….
「ブーーーーーーッ!」
という下手くそなロングトーンを吹く少年の顔を、音楽室の入口から凝視める者がいた。
(続く)
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