『少年』は、『広島カープ』の『漆畑勝久』内野手が、彼の名前のお陰で『漆』という漢字を覚えられたものの、完全なるレギュラーになれる選手ではなかったが、そんなことではハブテン少年ではあったのだ。
だって、ハブテルと、
「あんたあ、ハブテンさんな」
と母親に叱られるのだ。
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(ハブテン少年[その32]の続き)
「できたわよー」
『クッキー』子さんと、彼女の誕生日パーティーで招かれた同級生たちに声をかけてきたのは、『クッキー』子さんの母親であった。
「台所にいらっしゃーい」
エヴァンジェリスト少年は、大きく息を吸い込んだ。
「(美味しそうな匂いじゃ)」
台所らしく方向から、何か甘い匂いが漂ってきていた。
「みんな、行こう!」
『クッキー』子さんが、声を掛け、みんなは台所に向った。
「くんくん」
『クッキー』子さんの同級生たちは、列をなし、少し前傾姿勢になって、更に顔を前に出し、少々行儀は悪いが、鼻を鳴らした。
「みんな、お待たせね」
台所に入ると、『クッキー』子さんの母親が、屈み込んだ姿勢から、お盆のようなものを両手で持ち、立ち上がりながら、みんなの方に振り向いた。
「ああ!」
『クッキー』子さんの母親が、振り向くのに合わせて、もう堪らなく甘ーい匂いが流れてきて、みんなの鼻を鳴らし、思わず、声を出させた。
「いっぱい、食べてね!」
『クッキー』子さんの母親は、お盆のようなものを(それは、トレイであったが、当時はそんな言葉は使われておらず、エヴァンジェリスト少年は、見たことのないそれを『お盆』と理解するしかなかった)台所のテーブルの上に置いた。
「うおー!」
お盆のようなものの上に置かれていたのは、丸いものと、星型のもの、ハート型のもの、四角なものとが混ざったお菓子であった。出来立てだ。
「(おー、ビスケットか!)」
エヴァンジェリスト少年は、それを『ビスケット』だと思った。珍しい手作りだ。いや、手作りにせよ、市販のものにせよ、『ビスケット』自体、あまり食べたことはなかった。
「うわー!美味しそう!」
子ども達は、トレイを覗き込んだ。アツアツで顔が火照る。『クッキー』子さんの母親は、それを『オーブン』から取り出したのだ。当時はまだ、電子レンジもなく、『オーブン』がある家も珍しかったであろう。
しかし、エヴァンジェリスト少年は、お菓子が出てきたのが、『オーブン』からであるのか何からであるのか、分らなかった。それよりも、『ビスケット』を家で母親が作ってくれる、ということに驚いていた。
「さあ、『クッキー』、召し上がれ!」
『クッキー』子さんの母親は、トレイの上で両手を開くようにして、そう云った。
(続く)
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