『少年』は、当時(1967-1969年頃)、人気となっていたグループ・サウンズの一つである『ザ・ワイルドワンズ』のヒット曲『想い出の渚』という曲のどこがいいのか分らなかったが、そんなことではハブテン少年ではあったのだ(そもそもハブテルことでもなかった)。
だって、ハブテルと、
「あんたあ、ハブテンさんな」
と母親に叱られるのだ。
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(ハブテン少年[その136]の続き)
「(んぐっ!)」
『ミドリチュー』(広島市立翠町中学)の臨海学校の助手となる3年生の生徒たちの特訓をするプール・サイドに腰を下ろした一人の女子生徒は、思わず両脚を窄めた。
「(エヴァ君……)」
女子生徒も臨海学校の助手に選ばれ、地元広島にある大学で体育の講師をしているというオジイチャン先生の特訓を受けていた。
「君、型はええのお」
オジイチャン先生は、クロールで見事な手抜きを見せた少年を褒めていた。
「うぷっ!」
泳ぎを止めた少年は、口を尖らせ、音を発し、水に濡れた顔を拭った。
「(エヴァ君……)」
プール・サイドに腰を下ろしたその女子生徒、『ユートミー』子さんは、泳ぎの『型』はいい少年の名前を、声を出さずに呼んだ。
「君、型はすごいええけえ、息つぎもちゃんとしんさい」
オジイチャン先生は、エヴァンジェリスト少年への指導が一番、熱心である。泳ぎの『型』は誰よりもいいのに、息つぎができない。とても、とても惜しい少年なのだ。
「(んぐっ!)」
しかし、『ユートミー』子さんには、眼の前の少年が息つぎができようができまいが、そんなことはどうでもよかった。
「(んぐっ!)」
少年がブラスバンドでサックスを吹く姿にも『反応』するが、ここプールでは、裸体の少年に、より強く『反応』してしまう。
「ぷーっ!」
だが、エヴァンジェリスト少年は、『ユートミー』子さんの視線に気付かない。
「『ユートミー』子さんって、エヴァ君のことが好きなんよ」
他の3年生の女子生徒からそう聞いたことはあったが、彼に興味があったのは、2年生の『パルファン』子さんと、その同級生のあの『肉感的』な少女とであったのだ。
「(んぐっ!んぐっ!)」
『ユートミー』子さんも綺麗で評判な、憧れている男子生徒も多い女子生徒であったが、エヴァンジェリスト少年が、彼女に視線を送ることはなかった。しかし、そのニヒルさが、却って『ユートミー』子さんの心をくすぐった。
「(ああ、『アラン・ドロン』!)」
髪を濡らし、裸の胸を晒したその姿が、映画『太陽がいっぱい』の『アラン・ドロン』を彷彿とさせたのだ。
「(んぐっ!んぐっ!んぐっ!)」
(続く)
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