2020年1月24日金曜日

ハブテン少年[その159]




『『少年』は、その前年(1969年)に放映が始まったテレビ・アニメ『ムーミン』も、なんだかほのぼのとしていてつまらない、とハブテた。

ハブテルと、

「あんたあ、ハブテンさんな」

と母親に叱られると思ったが、ハブテた。


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「いやあ、ちょっといいですかあ!」

まくしたてる上司の声よりも大きな声で、エヴァンジェリスト少年が、いや、エヴァンジェリスト氏が、いやいや、エヴァンジェリスト少年が叫んだ。

「そんなの全然、論理的じゃあないでしょう!」

叫ばれた上司だけではなく、会議室にいる全員が、怯んだ。

「(何故、ボクがこんなことを云わないといけないんだ!)」

エヴァンジェリスト少年は、定年となり、再雇用で会社に残っていた。再雇用満了までも遠くはなかった。最後くらい、穏やかなサラリーマン生活を送りたかった。


「(でも、ボクは抑えられない)」

エヴァンジェリスト少年は、彼が少年でなくなっても、65歳が近くなっても『少年』であった。

「(みんな、ぼくより若いのに、何故、『若く』ないのだろう?)」

しかし………

「バチバチバチバチバチバチ!」

と、1970年の『ミドリチュー』(広島市立翠町中学)の卒業式で、下級生たちに拍手で送られながら、体育館を出て行く時、エヴァンジェリスト少年は、まだ知らなかった。

「バチバチバチバチバチバチ!」

『大人』とは、大人だけのことではなく、『青春(若さ)』は、若者だけの特権だけではないことをまだ知らないのであった。

「♬ああ、むーなしく、ゆたーかな、オトナーに、なーりたくない♫」

拍手の音は聞こえず、エヴァンジェリスト少年の耳にだけは、森山良子の歌声(『山本直純』作曲・『倉本聰』作詞)が響いていた。


(続く)



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