『少年』は、当時(1967-1969年頃)、人気となっていたグループ・サウンズの一つである『ブルー・コメッツ』唄う『ブルー・シャトウ』という曲の『♫森とんかつ、泉にんにく♩』という替え歌は、自分も歌ったものの、どこが面白いか分らなかったが、そんなことではハブテン少年ではあったのだ(そもそもハブテルことでもなかった)。
だって、ハブテルと、
「あんたあ、ハブテンさんな」
と母親に叱られるのだ。
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(ハブテン少年[その139]の続き)
「ふん、バカじゃないの」
日曜日の朝、居間でテレビを見ている父親の側で、エヴァンジェリスト少年が呟いた。
「ん?」
チチ・エヴァンジェリストは、末息子の方に顔を向けた。
「何が有難いんだろう?」
テレビで貧相なある老人に対して人々が、手を振ったり、万歳をしたり、涙したり、拝んでいるのを見ていた。
「何云いよるん!」
温厚を絵に描いたようだと周囲から云われる父親が、珍しく気色ばんだ。
「別に偉い訳でもないのに」
「変なこと云いいんさんな」
「別に偉くもない人を有り難がるのは変だよ」
自分は好きではなかったが、女の子たちが、『ザ・タイガース』の『ジュリー』こと沢田研二を好きになり、『キャー、キャー』云う方がまだ理解できた。
「いい加減にしんさい」
「バカみたいだ」
この国は、独裁国家より酷いと思った。独裁国家では、民衆は独裁者を崇拝する。いや、それは崇拝することを強要されているだけかもしれない。しかし、この国は、民主主義の国のはずなのに、ただの老人を、いや、自分たちに対して『ミナが….』と偉そうな口のきき方をする老人を、民衆が自発的に有り難がるのだ。
「やめんさい!」
父と末息子の会話を聞いた母親が、台所から居間に来て怒鳴った。
「(どうしたんだろう、この子は?)」
3人の息子の中で一番、優秀で品行方正な末息子の変化に戸惑いながら、怒鳴った。
「そうようなことは云うたらいけん!」
「でも、本当じゃないか。別に偉くもなんでもない人間を有り難がるなんて変じゃないか!」
このことを口にすると、父親も母親も怒ることはハナから分っていたが、それでも自分を抑えることができない。
『パルファン』子さんが、脳裏から離れなくなり、堪らず、帰宅する『パルファン』子さんを追い、
「ボクと付き合ってくれないか?!」
と、そう告げたように、自分を抑えることができない。
「やめんさい!そうようなことを云うんは!」
と、云い終える前に、母親は、息子の頬に平手を飛ばした。
「ぐうーっ!」
息子は、打たれた頬を押さえながら、母親を睨みつけた。
(続く)
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