『少年』は、その年(1969年)、アポロ11号で人類初の月面着陸が為されたが、その時の映像を見る限り、月にウサギがいる様子がないことに、ハブテた。
ハブテルと、
「あんたあ、ハブテンさんな」
と母親に叱られると思ったが、ハブテた。
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(ハブテン少年[その147]の続き)
「卒業した生徒なんじゃと」
ハハ・エヴァンジェリストは、末息子にそう云った。
「体育館じゃと」
エヴァンジェリスト少年は、中国新聞のその記事を読まなかったので、あくまで母親に聞いた限りであるが、その前日、卒業した生徒が学校にやって来て、体育館で、先生に『お礼参り』をしたらしい。
「ふーん」
エヴァンジェリスト少年は、気のない返事をした。当時(1960年代)、『ミドリチュー』(広島市立翠町中学)は荒れていると云われていたが、入学してみて、そして、3年間、そこで過ごして、『荒れている』という実感はなかったのだ。
しかし…….
「え!」
その日、登校して見たパンヤ先生は、頭に包帯を巻いていたのだ。
「(お礼参り……)」
パンヤ先生に促されて、工場のような、でも工場のようではないような建物の中に連れ込まれ、同学年で同じブラスバンド部隠のジャスティス君とスキヤキ君と共に、窓のない、薄暗い部屋で待たされている時、エヴァンジェリスト少年は、頭に包帯を巻いたパンヤ先生の姿を思い出していた。
「なんか怖いのお」
パンヤ先生が暴力を振るった訳ではなかったであろうし、そもそもパンヤ先生が『お礼参り』の当事者であったかどうかも定かではなかった。当事者であったとしても、加害者ではなく被害者であったであろうが、ブラスバンドの練習中に呼び出され、学校から何も告げられず連れ出され、どこかわからぬ部屋に押し込まれた状況が、3人の男子生徒を不安にしていた。
「ギーッ」
ドアが開き、パンヤ先生が、入って来た。
(続く)
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